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筆者プロフィール
榊原 沙奈(90′)
榊原行政書士事務所 代表行政書士
やぎ座のO型。趣味は写真を撮ること、神社をめぐること。
相続の生前対策とは
相続の生前対策とは、自分や親族の死亡と同時に発生する相続に対し、円滑な手続が行えるよう備えることをいいます。
生前対策の目的
相続に関し、生前に対策を講じる目的は次の通りです。
- 相続トラブルの回避
- 納税資金の準備
- 節税対策
- 認知症対策
1.相続トラブルの回避
相続に関し、遺産を巡って感情的になり、家族間で対立することがあります。
生前に適切な対策を行うことで、財産を適切に管理し、法律に関する知識のない人でも円滑に手続が進められるよう備えることで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。
2.納税資金の準備
相続財産が基礎控除額を上回る場合、相続税の申告・納付義務を負います。
相続税は、相続財産の価額に応じて算出されるため、相続財産の大部分を不動産が占める場合、各相続人は納税資金をそれぞれ準備する必要があります。
納税資金の支度が難しい場合、生前に不動産の一部を売却する等の対策を講じることで、相続人の負担が軽くなるでしょう。
3.節税対策
中長期的に見て、自分や家族の資産を渡したい相手が決まっている場合、相続の発生前に贈与する方法もあります。
相続財産を減らすことは、結果的に相続税の軽減効果を生むだけでなく、相続開始後のもめ事防止に役立つこともあります。
相続税が高額になる場合、相続人が相続税を納付できないと、財産の一部を売却しなければならないこともありますが、適切な生前対策を行うことで、このようなリスクを回避することができます。
相続税に限らず、贈与税の非課税枠を効果的に利用することで、相続財産全体の保全に繋がります。
4.認知症対策
生前対策といっても、全てが死後に向けた対策というわけではありません。
病気や障害により判断能力が低下した場合、いくら名義人本人であっても、自分自身の財産を自由に管理・処分することができません。
こうなると、生前対策はおろか、日常生活も危ぶまれます。
本人が管理・処分できない状況を想定し、対策を講ずることは、生きている間だけでなく、相続発生後の対策としても有効です。
生前対策の流れ
生前対策は、次の流れで行うとスムーズです。
1.財産の整理
預貯金や不動産、有価証券等の財産を全て整理します。
どこに、何を、どのくらい所有しているのかを明確にし、財産目録等を作成しましょう。
複数の金融機関に口座を持っている場合や多数のクレジットカードを保有している場合、不要なものは解約し、最小限にとどめておくと管理も楽になるでしょう。
不動産を所有している場合、権利関係を確認し、共有状態なら持分の売却または共有者からの買取を検討するといいでしょう。
2.課題分析
法定相続人の確認、自身の資金繰り計画を定め、課題を特定します。
法定相続人は、戸籍関連書類を取得して確認するのが最も確実です。
作成した財産目録と、相続人となる人の数や関係性を考慮し、リスクを特定・分析しましょう。
相続税の基礎控除額を上回る場合、活用できる控除枠の確認、納税資金の支度や生前の財産処分等が考えられます。
3.対策
課題の特定、分析ができれば、できる限りの対策を施しましょう。
専門家に相談する場合でも、課題が明確な方が有意義な意見が期待できますよ。
生前対策
生前対策には、次の方法があります。
1.遺言書
遺言書とは、被相続人(死亡人)が所有する財産を、誰に、どのくらい承継させるのかを記した文書です。
民法上に必要な形式が定められており、これにそぐわないものは法的な効果を持たないことに注意が必要です。
遺言は健康な状態でなければ意味がない
遺言書は、誰でも作成できるわけではありません。
遺言書を作成する人に充分な判断能力があり、自身の残す遺言により、どのような効果・結果があるのか理解できる能力が求められます。
認知症、特定の障害をもつ人等が残す遺言書は、無効となります。
遺言書の形式
遺言書は「自筆証書遺言書」「公正証書遺言書」の2種類に分けられますが、いずれの場合も下記の形式を備える必要があります。
- 相続財産が明記されている
- 文言が明確
- 遺留分に配慮した分割割合である
自筆証書遺言書の場合、「全文」「作成年月日」「氏名」を全て自書(自筆)する必要があり、押印すること。
公正証書遺言書の場合、遺言の内容を遺言者自身から公証人に口述し、証人2名の立会のもと作成することが求められます。
遺言執行者の指定
遺言書では、遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者は、遺言により指名される人をいい、遺言に基づく財産の処分・分配の権限をもちます。
逆に言えば、遺言による指名以外に遺言執行者を指定する方法はなく(相続人による委任は可能)、遺言執行者がいない場合は逐一相続人全員の同意を必要とするため、手続が長期化するなどのリスクが考えられます。
2.家族信託
家族信託とは、自分の財産を管理・処分する権限を他人に託す制度をいいます。
思いどおりの承継方法が選べる
家族信託では、財産の管理・処分方法を自由に設計できるだけでなく、託した管理等により発生する収益を別の人に与えることができます。
大前提は契約のため、開始時期も自由に決められることも大きなメリットです。
管理・運営方法についても細かな設定ができるため、託す側の要望を色濃く反映することが可能です。
このほか、遺言書では一次相続に関する指定しかできないのに対し、家族信託では、二次相続以降まで決定することができます。
このことから、子孫繁栄を願う気持ちが強い方にこそ、家族信託がオススメだといえます。
身上監護は範囲外
家族信託は、その自由度の高さから、専門家の知識なしでは正しい設計が難しい特性があります。
例えば、成年後見では身上監護も頼めるところ、家族信託の目的は財産の管理・処分であり、原則、本人の面倒を見ることは含まれません。
成年後見制度の代替として考える場合には、このような部分もカバーできる内容に仕上げる必要があります。
3.成年後見制度
成年後見制度は、病気や障害により判断能力が低下した人につき、財産管理・身上監護を目的とし、後見人がサポートする制度です。
成年後見制度は、「法定後見」「任意後見」の2つに分けられます。
中断は許されない
成年後見制度は、原則、1度開始すると対象者である被後見人の死亡まで、契約を解除することが出来ません。
任意後見の場合、報酬の有無を自由に設計できますが、法定後見の場合、被後見人の財産から死亡まで、後見人に報酬を支払い続ける必要があります。
対象期間が長期化するほど報酬額も高額となり、多少なりとも相続財産に影響します。
4.生前贈与
生前贈与は、自分の財産を生きている間に子・孫等に贈与するものをいいます。
贈与の際、「暦年課税」「相続時精算課税」のいずれかを選択することができ、それぞれに控除額が設定されています。
財産を自由に処分できる
いつ開始するかわからない相続に対し、生前贈与は自分で時期や相手、内容を選ぶことができます。
不動産や有価証券等、価値が変動する性質の財産において、今後高騰が見込めるものを早期に贈与することで、大きな節税効果を生む可能性もあります。
ただし、控除枠を超えると税額も大きくなるため、気を付けましょう。
相続開始から7年前まで相続税の課税対象になる
生前贈与から7年以内に贈与者が亡くなった場合、贈与の対象となった財産は相続財産に加算され、相続税の課税対象に含まれます。
このため、生前贈与が必ずしも節税に繋がるとは言い切れない点に注意しましょう。
相続の生前対策とメリット、注意点まとめ
当ページでは、相続の生前対策と各対策のメリット、注意点を解説しました。