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当ページでは、相続人の中に認知症を発症している人がいる場合に起こること、課題、対処法を解説します。
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筆者プロフィール
榊原 沙奈(90′)
榊原行政書士事務所 代表行政書士
やぎ座のO型。趣味は写真を撮ること、神社をめぐること。
相続人が認知症だった場合の相続
相続手続の際、法定相続人が全員健康である保証はありません。
親御さんが亡くなった際、相続人の中に認知症を発症している人がいる場合、相続手続はどうなってしまうのでしょうか。
相続人が認知症だと起こること
被相続人が遺言書を用意していない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が、何を、どのくらい承継するのかを決めることになります。
遺産分割協議は、絶対に行わなければならないものではありませんが、法律で定められた分割方法では納得がいかない相続人がいる場合、一時的には同意したけど、後になって蒸し返される場合など、トラブル防止のために行う場合がほとんどです。
もし、相続人が認知症だと、この遺産分割協議ができません。
- 自由な遺産分割はできない
- 認知症本人は相続放棄すらできない
- 無理に遺産分割協議をすれば無効で、有罪になる場合も
1.自由な遺産分割はできない
法定相続人が認知症の場合、遺産分割協議に参加することができません。
こうなると、法定相続分での分割しか残された道はありません。
法定相続分で分割する場合、対象が何であってもきっちり等分しなくてはならず、相続人の意思は関係なくなります。
不動産など分割が難しい財産がある場合には不適切ですし、承継したい財産に希望がある場合がほとんどなので、遺産分割自体が厳しくなります。
2.認知症本人は相続放棄すらできない
認知症の場合、判断能力の低下を理由に、単独で法律行為をすることができません。
この「法律行為」には、遺産分割協議だけでなく、相続放棄も含まれますので、身動きがとれなくなります。
3.無理に遺産分割協議を進めると無効で、有罪になることも
認知症により判断能力が低下した相続人が遺産分割協議に参加しても、その協議は無効となります。
無効とは、はじめからなかったものとして扱われることをいいます。
遺産分割協議では、被相続人の財産・権利が動くことになります。
これを「法律行為」と呼び、判断能力が低下しているのをいいことに、特定の人のみが不利益を被るおそれがあります。
そのため、実際には適切な内容の遺産分割協議だったとしても、内容は問いません。
認知症であることを隠し、遺産分割協議書を作成した場合、私文書偽造などの罪に問われることもあります。
相続人が認知症の場合の遺産分割協議
相続人が認知症の場合、遺産分割協議を行うには成年後見制度を利用するほかありません。
具体的には、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、後見人が本人に代わって法律行為(ここでは遺産分割協議)を行います。
成年後見制度の課題
成年後見制度を利用すれば、認知症の人がいても遺産分割ができますが、次の問題が発生します。
- 後見人として他人が入ってくる
- 死ぬまでかかる後見人報酬
- 親族が後見人になると相続時は代理人になれない
1.後見人として他人が入ってくる
認知症本人の財産を管理するため、より本人に近い親族から選ばれそうな気がしますが、実情は、弁護士や司法書士などが選任される場合がほとんどです。
家庭裁判所は、1度選んだ成年後見人を本人が亡くなるまで変更しないのが一般的なので、一生涯付き合っていく覚悟が必要です。
2.死ぬまでかかる後見人報酬
親族以外から後見人が選ばれた場合、毎月報酬を支払う必要があります。
成年後見人に支払う報酬は、本人の財産額により算出されますが、一般的には約2-6万円/月。年間24-72万円ほどの費用がかかります。
企業などを定年退職され、年金や貯金で生活している場合、死活問題となります。
3.親族が後見人になると相続時は代理人になれない
親族が成年後見人になった場合、お互いが法定代理人となる相続については、代理人になることはできません。
この場合、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てすることになりますが、ここで選ばれるのは専門職がほとんどです。
成年後見制度を使わずに遺産分割をする場合
成年後見制度を使いたくない場合、法定相続分に従った遺産分割が考えられます。
ただし、法定相続分通りの分割方法にも次の課題が残ります。
- 不動産共有で後々トラブルに
- 税金の控除枠が利用できない
1.不動産共有で後々トラブルに
相続財産に不動産が含まれる場合、法定相続分通りに分けるとなると「共有」状態になります。
共有状態の不動産は、売却、賃貸に出す際、その度に共有者全員の合意を必要とします。
このため、相続手続の時点では良案に見えても、管理の段階で後見人を介する必要がありますし、他の相続人が死亡した場合には、死亡人の相続で他人と共有関係になるなど、かなり複雑になる可能性があります。
2.税金の控除枠が利用できない
相続に関わる特例を使うには、遺産分割協議が必要です。
法定相続分で遺産を承継する場合、遺産分割協議自体が不要な代わりに、これらの特例・控除枠を利用できないことがあります。
既に認知症の家族がいる場合の対策
既に、ご家族の中に認知症を発症している人がいる場合、そうでない家族がとれる対策は次の通りです。
- 遺言書を作成する
- 家族信託契約を結ぶ
- 生前贈与を検討する
1.遺言書を作成する
相続人が認知症だった場合、さまざまな手続で困ることになりますが、しっかりした内容の遺言書があれば、遺された人達は遺言書を使って、さまざまな手続を進めることができます。
2.家族信託契約を結ぶ
自分の死後、相続の対象となる財産を、あらかじめ特定の人や企業に託す契約(信託契約)を結んでおくと、死後に処分で困ることがありません。
3.生前贈与を検討する
一定の贈与額がかかりますが、生前に少しずつ贈与しておくと、死後の手続を最小限に抑えることができます。
死亡人が認知症だった場合の注意点
反対に、死亡人が認知症だった場合、当人が遺言書を用意していることでトラブルに発展する場合があります。
たとえば、遺言書の内容に偏りがあり、不利益を被る相続人から「遺言書を作成した時点で、既に認知症を発症していた」と主張される場合です。
この主張が通るかどうかはさておき、事実確認のため、一定期間は相続手続が滞ることになりますし、その後の親族関係が悪化することになります。
自分で遺言書を用意する際に少しでも不安があれば、1度医師の診断を受けてから作成する。
自分ではなく、ご家族が遺言書を用意する際も同様です。
認知症というと高齢者が発症するイメージを持つ人が多いですが、若年でも発症することはあります。
少しでも「むむむ?」と感じたら、医師の診断を受けましょう。
相続人が認知症だった場合の課題・対処法 まとめ
当ページでは、相続人が認知症だった場合の課題と対処法を解説しました。