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当ページでは、時効を援用するための要件、手続、注意点を解説します。
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時効の援用とは
時効の援用とは、債権者がもつ権利を行使しないまま一定期間を経過し、権利が消滅した事実を債務者が主張することをいいます。
「援用」は、ある事実を自己の利益のために主張することをいい、法律上は時効について行われることが多いです。
なぜなら、時効は援用をしない限り、効力を発揮しないからです。
借金の場合、援用しない限り借金が消えることはありません。
時効援用の対象
一般的に下記のものは、時効の援用対象となる場合があります。
- クレジットカードの支払債務
- 銀行、消費者金融からの借入金
- 携帯電話に関する端末代金、使用料金等
- 賃貸物件に関する賃料など
時効を援用するための要件
時効を援用するには、下記の要件を満たす必要があります。
- 時効期間が経過したこと
主な時効期間
時効期間は行為ごとに定められており、主に下表の期間を指します。
内容 | 期間 | 起算点 |
---|---|---|
一般の債権 | (1)5年 (2)10年 | (1)債権者が権利を行使できることを知った時 (2)権利を行使できる時 |
不法行為による損害賠償請求 | (1)5年または3年 (2)20年 | (1)被害者・法定代理人が損害・加害者を知った時 (2)不法行為の時 |
貸付金の利息、遅延損害金 | 5年 | 利息:特約がなければ貸付日 遅延損害金:弁済期 |
不当利得返還請求 | 10年 | 不当利得返還請求権の発生した日 |
労働者の賃金請求 | 5年 (当分の間は3年) | 賃金請求権を主張できる日 |
消滅時効について、民法では債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、権利を行使できる時から10年間と定められており、「借金の時効は5年間で消滅する」と考えていただければ、大きく違うことはありません。
ただし、消費者金融でのキャッシング、カードローン等、貸金業者からの借金は、民法ではなく商法により5年間の消滅時効が定められています。
時効期間の経過を確認する方法
時効期間が経過していることを確認するには、下記の方法が考えられます。
- 金銭消費貸借契約書等を確認
- 銀行、消費者金融等の通知書を確認
- 信用情報機関に信用情報を照会
1.金銭消費貸借契約書等を確認
個人間でお金の貸借りをする際、金銭消費貸借契約書、借用書等を作成することがあります。
いずれの場合も年月日の記載があるのが一般的なので、まずは契約書等を確認しましょう。
2.銀行、消費者金融等の通知書を確認
金融機関、消費者金融等から通知書等が届いている場合、本書に記載される年月日を確認する方法があります。
ただし、記載年月日以降に1円でも返済した場合、または、期日以降の督促に対し、返済をするような回答を行っている場合、その日が起算日となることに注意しましょう。
債権者に残債務、支払期日等を確認した場合、当該確認行為が「債務の承認」とみなされ、時効期間がリセットされる点に注意してください。
3.信用情報機関に信用情報を照会
信用情報機関とは、CIC、JICC、KSCのいずれかを指し、「契約日」「入金日」「移動発生日」が5年よりも前ならば時効が完成している可能性が高いです。
信用情報機関名 | 開示手数料 (税込) |
---|---|
株式会社シー・アイ・シー (CIC) | インターネット:500円 郵送:1500円 |
株式会社日本信用情報機構 (JICC) | スマホ、郵送:1000円 |
全国銀行個人信用情報センター (KSC) | 1000円 |
時効の援用ができない場合
下記に該当する場合、時効を援用することができません。
- 裁判上の請求
- 差押え・仮差押え・仮処分
- 債務の承認
- その他
1.裁判上の請求
請求とは、債権者から債務者に対し、権利内容を主張する行為を指します。
裁判上の請求とは、この請求を裁判(訴訟)により行うことを指しますが、債権者からの請求により、裁判所が債権者の代わりに行う「支払督促」、通常の訴訟より簡易的な「少額訴訟」等も含まれます。
債権者が貸金業者の場合、裁判外で請求を行うことがありますが、法律ではこれを「催告」と呼びます。
催告はあくまで暫定的な措置ですが、催告から6か月間は時効期間が延長されるので注意してください。
2.差押え・仮差押え・仮処分
債権者が債務者の財産を、差押え、仮差押え、仮処分のいずれかを裁判所に申立てた場合、時効期間がリセットされます。
住宅ローンの場合、滞納すると自宅が差し押さえられ、競売開始通知が送付されたとき、または、競売開始決定の登記が完了したときに時効期間がリセットされます。
3.債務の承認
債務の承認とは、債務者から債権者に対し、借金等の事実を認識していることを示すことをいいます。
債務の承認は、必ずしも決まった形である必要はなく、口頭(電話等の通話を含む)、書面、間接的に認めた場合も該当します。
このほか、少額でも返済した場合や返済の猶予を求めた場合も債務の承認に該当し、時効期間がリセットされることになります。
4.その他
債権者が債務者の所在を知っている場合、各通知書等が送付されるため、債務者自身で確認することが可能です。
しかし、債権者が債務者の所在を知らない場合、いずれの通知書も手元に届きません。
注意したいのは、こうした場合でも裁判が進行し、債権者に勝訴判決が出る場合があることです。
「自身の関知していないところで訴訟が進むなんて」と思うかもしれませんが、債権者保護の観点により、債務者に届くかどうかに関わらず、訴訟は進行し、勝訴判決または勝訴判決と同等の効力をもつ支払督促等が確定することがあります。
時効援用手続の流れ
時効を援用する場合、次の流れで手続を行います。
- 時効援用通知書を作成
- 債権者に送付
1.時効援用通知書を作成
法律上、時効の援用を行う方法についての規定はなく、理論上はどのような方法でも有効に時効を援用することができますが、あまり現実的ではありません。
後のトラブルを防ぐためにも、時効援用通知書を作成しましょう。
1-1.時効援用通知書の記載事項
時効援用通知書には、下記の事項を記載しましょう。
- 時効援用通知書の作成年月日
- 債権者の氏名(名称)、住所
- 債務者の氏名(名称)、住所
- 時効の援用の意思表示
- 債務を特定できる情報
- 信用情報機関からの事故情報削除依頼
2.債権者に送付
時効援用通知書を作成したら、内容証明郵便により債権者に送付しましょう。
内容証明郵便は、「差出人」「受取人」「差出日」「文書の内容」を郵便局が証明してくれるもので、別途、配達証明を付加することも可能です。
配達証明を付加した場合、相手への送付後、配達証明書が届きます。
2-1.かかる費用
債権者に時効援用通知書を送付する際、下記の費用がかかります。
種類 | 料金 |
---|---|
普通郵便 | 84円(25g以内) 94円(50g以内) |
一般書留 | +480円(損害要償額10万円まで) |
簡易書留 | +350円(損害要償額5万円まで) |
内容証明 | +480円 1枚ごとに+290円 |
本人限定受取 | +210円 |
配達証明 | +350円(差出時) +480円(差出後) |
時効援用通知書送付後の債権者の反応
時効援用通知書を受け取った債権者は、概ね次の反応を示します。
- 連絡が来る
- 無反応
- 債務不存在証明書が届く
1.連絡が来る
時効援用通知書の送付後、債権者から電話、郵便等により連絡があった場合には注意が必要です。
当該やり取りの中で「債務の承認」と同様の返答をした場合、時効の援用権を喪失する可能性があります。
2.無反応
時効援用通知書を送付後、債権者から何の音沙汰もない場合、信用情報機関にて照会を行いましょう。
時効が有効に成立した場合、信用情報機関の事故情報が抹消されます。
ただし、時効の成立と抹消のタイミングにずれが生じる場合があるため、時効援用通知書の送付から1か月から2か月程度の期間をあけて確認しましょう。
3.債務不存在証明書が届く
債権者が時効の成立を認めた場合、債務不存在証明書が届きます。
関係書類と一緒にしばらくの間、保管しておくことをオススメします。
時効援用の注意点
時効援用手続を行う場合、下記に注意しましょう。
- 督促の再開
- 残債務を一括請求
1.督促の再開
時効の援用に失敗した場合、債権者からの督促が再開される可能性があります。
時効が成立しない限り、債務者の返済義務は存続するため、督促状や催告書が送付されるだけでなく、裁判所から支払督促、訴状等が送られてくる場合も。
支払督促を放置すると、財産を差し押さえられる場合もありますので、早めに対処しましょう。
2.残債務の一括請求
時効援用に失敗した場合、督促の再開だけでなく、残債務の一括請求を行われる可能性があります。
通常、金銭消費貸借には「期限の利益」があります。
期限の利益とは、返済期日が到来するまでの間、債務者に返済義務は生じないとする権利を指しますが、返済期日を過ぎ、債務者が期限の利益を喪失することにより、債権者には「一括返済を求める権利」が発生します。
時効を待たずに借金問題を解決する方法
時効の援用ができない場合、債務整理という選択肢があります。
債務整理は、何らかの事情で返済に困っている人を支援する制度で、時効の到来を待たず、借金の減免措置を受けることができます。
時効援用の要件、手続、注意点まとめ
当ページでは、時効の援用を行う際に満たすべき要件、必要な手続、注意点を解説しました。