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問題3
基本的人権の間接的、付随的な制約についての最高裁判所の判決に関する次のア~エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。
ア 選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。
イ 芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。
ウ 裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。
エ 刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 ア・エ
4 イ・ウ
5 イ・エ
正解:2
ア.妥当
この設問で触れている判例は、選挙活動における個別訪問の制限に関するもので、戸別訪問の禁止が意見表明の自由の制約に当たるかどうかが論じられました。
戸別訪問は、占拠における手段として選挙活動を妨げることなく意見を表明する手段の1つです。
しかし、戸別訪問に伴う「過度な勧誘」「強引な選挙活動」により他者の自由を侵害する可能性があり、これを制限するのは手段の制限に過ぎません。
したがって、当設問は妥当です。
(補足1)判決の要点
判決において、最高裁は戸別訪問を禁止することは、意見表面の自由を直接的に制限するものではなく、手段方法の規制に過ぎないとしました。
すなわち、選挙活動の自由な運用は保障しつつも、「選挙における弊害防止のためであれば制限をかけられる」という見解です。
この判決の根拠として、選挙活動の手段に用いられた戸別訪問が過度に執拗で、他者に圧力をかけたり、嫌悪感を抱かせる場合、選挙の公正性を損ねる恐れがあることを挙げ、手段方法に対する制限は合法的であり、間接的制約に該当するとしました。
(補足2)関係判例
最高裁判所昭和48年(1973年)11月19日判決:戸別訪問の禁止に関する判決
最高裁判所平成6年(1994年)4月27日判決:選挙活動における制限についての更なる明確化
イ.不適当
チャタレー事件(チャタレー夫人の恋人事件|昭和32.3.13)の判例を基に、芸術的ひょうげんとわいせつ物規制のバランスに関する問題です。
設問では、「芸術的価値のある文学作品に含まれる性描写が、善良な性的道義観念に反する場合には、その頒布が処罰される」と述べています。
当事件について、最高裁は当該規制を間接的・付随的な制約と認めたものの、芸術的表現の自由への制約そのものを問題視したわけではなく、芸術作品の表現の自由を尊重しつつ、社会的秩序を守るための規制を行ったことが論点となります。
そのため、「わいせつ物の規制に伴う制約」を単に間接的・付随的な制約に過ぎないとした本肢は、芸術的表現の自由とわいせつ物規制の関係における慎重な調整が必要という背景を無視したものだとわかります。
したがって、当設問は不適当です。
(補足1)わいせつ物の基準
最高裁は、わいせつ物の定義について、「善良な性的道義観念に反し、通常人の性的羞恥心を害する内容」であるとし、これに該当する場合には、規制が認められるとしました。
問題となった小説が単なる性的描写を含むだけでなく、文学としての芸術的価値があり、表現の自由の保護を受けるべきとの見解もあったものの、わいせつ物としての規制は、表現の自由に対する間接的・付随的な制約であり、社会秩序を保つために必要だという姿勢を維持した判例です。
ウ.妥当
裁判官の政治運動禁止事件(平成10年12月1日最大判)を基にした問題です。
当事件では、裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する措置について、「意見表明の自由」を侵害しているかどうかが争われました。
裁判官には高い中立性が求められ、政治運動への参加が裁判所全体の公正さを損なうおそれが指摘されました。
この制約は、政治的な活動が司法における公正性を損なう可能性を避けるためのものであり、意見表明の自由そのものを制約するものではなく、間接的・付随的なものにとどまるとされました。
したがって、当設問は妥当です。
エ.不適当
よど号ハイジャック新聞記事抹消事件(最高裁判所昭和60年6月25日判決)を基にした問題です。
被収容者が購読した新聞に掲載されていた「よど号ハイジャック事件」の関連記事について、刑事施設の管理者が記事部分を抹消し、被収容者は、「知る権利」「表現の自由」を侵害されたとして争いました。
この制限について、最高裁は、被収容者の思想や信条に対する直接的な制約ではなく、施設内の規律を守るために必要な措置の範囲で行われ、間接的な制約に該当すると認めました。
したがって、当設問は不適当です。
(補足1)判例の要点
最高裁は、刑事施設では、規律・秩序の維持が最優先され、新聞記事の内容が秩序を乱す可能性がある場合、抹消は許容されるとしました。
この制約は、思想や意見そのものを制限するものではなく、施設管理上必要な阻止として合理的な範囲に限られるとされ、抹消措置は違憲ではないとの判断を下したのです。