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相続手続きは、家族にとって大切な財産を適切に引き継ぐために欠かせない手続きですが、その中でも重要な役割を果たすのが財産目録の作成です。財産目録は、相続に関連する全ての財産を一覧化し、相続人が遺産を正確に把握できるようにするためのものです。
この記事では、財産目録の作成方法、必要な書類、活用シーン、メリットについて詳しく解説します。相続手続きがスムーズに進むための一助となるよう、財産目録の重要性を理解し、しっかりと準備しましょう。
財産目録とは
財産目録とは、相続に関する財産を一覧化したものをいいます。相続人が遺産を引き継ぐ際、その財産を正確に把握する目的で作成されるものです。主に遺産分割協議や相続税の申告・納付の際に大切な役割を果たします。
財産目録が必要な場面
財産目録は、主に次の場面で使用することになります。
- 相続手続き
- 相続税の申告・納付
- 遺産分割協議
- 遺言執行
- 遺産の管理
- 相続人同士のトラブル回避
1. 相続手続き
相続が発生した際、相続人は個人の財産を承継します。この際、遺産を正確に把握し、誰が、どの財産を相続するかを決定する際に財産目録を使用します。
2. 相続税申告・納付
相続税の申告・納税の際は、税務署への提出書類として財産目録を添付し、相続税の課税対象となる財産評価額を計算することとなります。
3. 遺産分割協議
故人が遺言書を作成していない場合や、遺言書と異なる分割方法を決定する場合、遺産分割協議を行う必要があります。この際、財産目録を基に各相続人がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合うこととなります。
4. 遺言執行
故人が作成した遺言書により遺言執行者が指定されている場合、原則、財産目録を作成し、遺言書の内容に基づき手続きを進めます。
5. 遺産の管理
相続が発生しても、すぐに遺産分割協議が始まるわけではありません。そのため、相続人は遺産を一時的に管理する責任を負うことになります。特に遺産に管理が必要なものが含まれている場合、これらを適切に管理するためにも財産目録が役立ちます。
6. 相続人同士のトラブル回避
遺産の内容が不明確な場合、相続人同士のトラブルを招く恐れがあります。この点、財産目録を作成することで後の争いを避けることができ、相続手続きがスムーズに進むことになります。
財産目録を作成するメリット
財産目録を作成することで、以下のメリットが考えられます。
- 相続手続きの効率化
- 相続税の申告・納税に役立つ
- 相続人同士のトラブル防止
- 遺産分割の公平性確保
- 後の相続人や第三者向けの資料として有効
- 遺言執行の補助
- 不動産など物理的管理の助けになる
- 事後のトラブル防止
- 特定の財産管理に有効
1. 相続手続きの効率化
正確な財産目録が作成されている場合、相続人が遺産の全容を把握するのに役立ち、故人の準確定申告や相続税の申告・納税、遺産分割協議などの手続きを効率よく進めることができます。
2. 相続税申告・納税に役立つ
相続手続きのうち、特に相続税の申告・納税においては遺産を正確に把握し、評価額を算出しなければなりません。この点、財産目録の作成により必要な情報を一目で確認できるようになり、申告時の誤りを防ぎ、正確な手続きを可能とします。
3. 相続人同士のトラブル防止
遺産が把握できなければ、相続人同士における誤解や争いを招くおそれがあります。財産目録を作成し、遺産の内容や評価額を明確にすることで、相続人全員が同じ情報を共有することができ、誤解を防ぐことができます。また、財産目録があることで遺産分割協議がスムーズに進み、相続に関する争い回避につなあります。
4. 遺産分割の公平性確保
財産目録を作成することで、相続人それぞれが受け取る財産を明確にし、分割方法を公正に決定することができます。また、財産目録があることで、誰が、どの財産を引き継ぐか、またはどの財産を売却し、分割するかなどの決定が容易になります。
5. 後の相続人や第三者向けの資料として有効
財産目録は、相続人だけでなく、後の世代や関係者にとっても有用な資料となります。たとえば、相続後に遺産の内容や評価に対し疑義が生じた場合に、目録があれば確認が容易となります。また、相続人が亡くなった後、その遺産を承継する相続人が遺産の内容を把握するのにも役立ち、手続きが円滑に進むことが期待できます。
6. 遺言執行の補助
故人の遺言書について遺言執行者がいる場合、遺言書の内容に基づき手続きを進めることとなりますが、この際、財産目録が整っていることで手続きがスムーズとなります。
7. 不動産など物理的管理の助けになる
財産目録には、不動産や動産などの物理的な資産も記載されます。これに基づき、相続人は管理すべき財産の種類や数量、評価額などを把握しやすく、特に管理が必要な場合に適切な対応をとりやすい点もメリットだと言えます。
8. 事後のトラブル防止
財産目録を作成しておくと、相続完了後のトラブル防止にも役立ちます。たとえば、相続税の申告漏れや未払い、遺産分割の内容に意義が生じた場合、財産目録が証拠として役に立つでしょう。このほか、税務署や司法機関に対して何らかの主張を行う場合にも有効な証拠として提出することができます。
9. 特定の財産管理に有効
故人が所有していたものは全て相続対象となります。たとえば、ペットやプラモデル、書籍、趣味のコレクションなど、その所有状況や評価額を記載することで、後のトラブル防止に役立ちます。
財産目録の作成に必要なもの
財産目録の作成には、以下の情報等が必要です。
区分 | 書類名 | 概要 |
---|---|---|
不動産に関する情報 | 登記簿謄本(全部事項証明書) | 不動産の所有者や権利関係などについて、法務局が管理する登記簿に記載された内容を証明する書類 |
固定資産税評価証明書 | 不動産の評価額や税額を確認するための書類 | |
土地、家屋の評価証明書 | 不動産の評価額が必要な場合、取得することがあります | |
不動産の売買契約書 | 不動産に関する契約書がある場合、参考にします | |
預貯金に関する情報 | 預金通帳またはコピー | 取引先金融機関、支店名、種別、口座番号などを確認します |
預金口座の名義人情報 | 故人が管理している通帳でも、名義人が相続人の場合には確認が必要です | |
預金証書 | 定期預金など証書形式で残高がある場合に必要です | |
株式・債券に関する情報 | 株式の証券口座の明細書 | 保有する株式の銘柄や株数、評価額が記載された明細書 |
証券会社等からの口座残高報告書 | 証券口座の残高や取引履歴を確認します | |
債権の契約書や証書 | 所有する債権の種類、額面、発行日などを確認します | |
年金に関する情報 | 年金証書 | 年金契約に関する情報が記載された書類 |
自動車に関する情報 | 自動車検査証(車検証) | 所有する自動車の登録情報が記載された書類 |
自動車の購入契約書や保険証書 | 車両の詳細、加入する保険の内容を確認します | |
貴金属や美術品、骨とう品に関する情報 | 貴金属の購入証明書や鑑定書 | 金や銀、宝石などの貴金属に関する詳細 |
美術品、骨とう品の鑑定書 | 絵画やアンティーク品の価値を証明する書類があると、評価額を明確にできます | |
不動産以外の物理的な財産 | 家財道具などのリスト | 家具や家庭用品、コレクション品の詳細をリストアップします |
貴重品などの詳細 | 市場価値があるとみなされる品物についてもリストを作成します | |
借入金や負債に関する情報 | 金銭消費貸借契約書、借入書など | ローン契約書、借用書など |
クレジットカード明細や未払いの請求書 | 借入金がある場合、詳細を把握するのに使用します | |
税務関連書類 | 直近の確定申告書 | 故人が過去に申告した税務関連の書類 |
相続税の計算に関する資料 | 相続税を計算するために必要な書類 (評価証明書など) | |
その他 | 契約書類や重要と思われる書類 | 財産に関するその他の契約書など |
財産目録の作成方法
財産目録の作成方法について、以下に説明します。
1.遺産をリストアップする
遺産となるすべての財産をリストアップします。これには、以下の財産が含まれます。
- 土地、建物など不動産
- 預貯金
- 株式、債券
- 車両
- 貴金属、美術品、家財道具
- その他 知的財産権など
- ローンなど借入金
2.各財産の評価額を決定する
各財産の評価方法、評価額を決定します。評価額がわからない場合、専門家に相談する選択肢もあります。たとえば、不動産の場合は固定資産税評価額を参考にしますが、不動産鑑定士へ依頼することも可能です。株式や債券については、取引所の価格のほか、会社の明細等を基に評価することになります。
土地家屋の評価
遺産分割協議において、各相続人の承継分を決定する際の評価額は決められていないものの、一般的には、固定資産税評価額を基準とします。遺産分割の内容には、すべての相続人が合意しなければなりませんが、一部の相続人が単独で不動産を承継する場合には、評価方法について異議を唱える相続人もいらっしゃるかもしれませんので注意が必要です。
以下に、遺産分割に用いる不動産の評価額についてご紹介します。
1 | 固定資産税評価額 | 自治体が課税額を算出するために設定した評価額のこと 公示地価の70%程度の価格となるケースが多い |
2 | 相続税評価額 | 相続税の計算に使用する評価額で、路線価方式または倍率方式で決定される 公示地価の80%程度の価格となるケースが多い |
3 | 時価(実勢価格) | その不動産が現在の市場で売買された場合に成立するであろう価格 遺産分割調停や新版の場合、原則、不動産は時価評価となる |
4 | 不動産鑑定評価額 | 不動産鑑定士が専門的な手法に基づき算出する価格 |
5 | 公示地価 | 国土交通省が毎年発表する1月1日時点の全国の標準地の価格のこと |
不動産の評価方法が決まらず、遺産分割協議が進められないケースも多い事から、必要に応じ遺産分割調停や、弁護士や司法書士への依頼も視野に入れましょう。
【参考リンク】No.4602 土地家屋の評価(国税庁)
自動車の評価
遺産に自動車が含まれる場合、原則、実際に行われた売買の価格や、専門家の意見を参考に評価します。要するに、中古車市場における専門業者の買取価格相場を参考に評価するということです。
仮に、買取価格相場が分からない場合、遺産である自動車と同じ種類、規格の新品価格を基に評価することになり、新品の製造から故人の死亡に至るまでの期間に応じ、償却費を差し引いた金額で評価します。償却費の計算について、耐用年数は耐用年数省令に規定された耐用年数を、償却方法は定率法によることとなります。
―と、この説明だけではわかりづらいと思いますので、以下にて解説します。
①自動車の評価に必要な情報
自動車の評価に必要な情報は、以下の通りです。
- メーカー
- 年式
- 車種
- グレード
- 走行距離
- 色
②評価方法
上記を基にネット等で中古車市場の買取価格相場を検索します。該当しない場合は、ディーラーや中古車買取業者に依頼し、売却査定を行うことも可能です。
③償却費の計算
万が一、これらの方法が使えない場合、「当該自動車と同種、同規格の新車の課税時期における小売価額ー償却費」にて算出します。
償却費とは、所有する固定資産が使用されることにより価値が減少する分について、一定の期間にわたり費用として計上することをいいます。もう少しわかりやすく言うと、資産の購入時に一度に全額を経費として計上せず、その資産が使われる期間に応じ、少しずつ費用を計上する方法です。
この償却費を算出する際に用いる自動車の耐用年数は、普通自動車で6年(定率法償却率0.333)、軽自動車で4年(定率法償却率0.500)です(出典:減価償却資産の償却率等表|国税庁)。
たとえば、遺産に含まれる普通自動車の購入価格が500万円だった場合、耐用年数は6年、定率法償却率は0.333ですので、償却費は166万5,000円(500万円×0.333)となり、評価額は333万5,000円(500万円ー166万5,000円)です。
貴金属の評価
遺産に貴金属が含まれる場合、原則、時価で評価することになります。基準となるのは故人の死亡日における販売業者の買取価格などで、これに重量をかけたものが評価額となります。
貴金属の評価額=故人の死亡日の買取価格×重量
宝石の場合、貴金属と同じように原則、時価で評価します。購入から時間が経っていなければ、購入時の価格や査定価格などを基に算定することになるでしょう。ただし、評価額が5万円以下のものについては、同程度の価格帯の宝石などと合算して計上します。
【関連記事】相続時に知っておくべき株式の評価方法と手続きのポイント
【関連記事】投資信託の相続:遺言書、分割協議、調停の進め方
3. 財産目録のフォーマットを選ぶ
財産目録のフォーマットについて、決められた様式はありません。そのため、ご自身で作成しても良いですし、あらかじめ用意されたテンプレートを使用しても問題ありません。
財産目録の例
財産の種類 | 詳細 | 面積 | 構造 | 評価額 | 所有者 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
不動産 | 東京都○○区○○丁目1番地 | 土地 100㎥ | 建物 木造2階建て | 5,000万円 | ○○ | 固定資産税評価額を基に評価 |
同上 | 80㎥ | 鉄筋コンクリート造 | 3,000万円 | ○○ | 固定資産税評価額を基に評価 | |
預貯金 | △△銀行 □□支店 普通 口座番号 0123456 | 100万円 | ○○ | 講座名義人 ○○ | ||
株式 | ○○証券 ○○株式会社 100株 | 50万円 | ○○ | 直近の取引価格に基づき評価 | ||
車両 | ホンダ シビック 2015年式 登録番号 湘南 012 3456 | 80万円 | ○○ | 走行距離 70,000km 減価償却済み | ||
貴金属 | 金製のネックレス(500g) | 50万円 | ○○ | 市場価格に基づき評価 | ||
家財道具 | 家具一式 | 10万円 | ○○ | 購入から10年以上経過 減価償却済み | ||
現金 | 自宅金庫内の現金 | 10万円 | ○○ | |||
合計 | 8,300万円 |
契約内容 | 借入金額 (元本) | 返済残高 | 金利 | 返済期限 | 返済方法 | 担保 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
借入金 | ○○銀行 住宅ローン 契約番号:0123456789 | 2,000万円 | 1,500万円 | 2.5% | 2030年12月31日 | 元利均等返済 | 不動産担保 | 完済予定:2029年 |
借入金 | ○○信用金庫 自動車ローン 契約番号:0987654321 | 500万円 | 300万円 | 3.0% | 2025年5月15日 | 元金均等返済 | 車両担保 | |
借入金 | ○○銀行 事業用ローン 契約番号:1122334455 | 1,000万円 | 1,000万円 | 4.0% | 2028年3月1日 | 一括返済 | なし | 事業資金 |
【参考リンク】3 様式集(国税庁)、相続財産目録(裁判所)、様式5 財産目録(みんなで使おうNPO法人会計基準)
4. 必要な書類を添付する
財産目録には、各財産を証明する書類を添付するのが望ましいです。たとえば、不動産については登記事項証明書、預貯金については通帳のコピーを添付しましょう。
【関連記事】相続手続き完全ガイド:必要書類と手続きの流れを徹底解説
5. 相続人全員で確認する
財産目録を作成したら、すべての相続人が確認しましょう。必要に応じ、弁護士や税理士などの専門家に確認してもらうと、より正確なものに仕上がります。
6. 遺産分割協議書と一緒に保管する
作成した財産目録は、遺産分割協議書と一緒に保管することをお勧めします。
【関連記事】遺産分割協議書を自分で作成するための完全ガイド!基本のステップと注意点
おわりに
財産目録は、相続手続きや税務申告を円滑に進めるカギを握り、相続人同士のトラブル防止にも役立ちます。正確に財産を把握し、関連書類を添付することで、相続手続きが効率よく進み、公平な分割を実現することができます。相続人全員で確認し、必要に応じ専門家の助けを借りながら、より確実に手続きを進めていきましょう。
財産目録の作成でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
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