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問題21
次の文章は、国家賠償法1 条2 項に基づく求償権の性質が問われた事件において、最高裁判所が下した判決に付された補足意見のうち、同条1 項の責任の性質に関して述べられた部分の一部である(文章は、文意を損ねない範囲で若干修正している)。空欄ア~ エに当てはまる語句の組合せとして、正しいものはどれか。
国家賠償法1 条1 項の性質については【ア】説と【イ】説が存在する。両説を区別する実益は、加害公務員又は加害行為が特定できない場合や加害公務員に【ウ】がない場合に、ア説では国家賠償責任が生じ得ないがイ説では生じ得る点に求められていた。しかし、最一小判昭和57 年4 月1 日民集36 巻4 号519 頁は、【ア】説か【イ】説かを明示することなく、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は損害賠償責任を免れることができない」と判示している。さらに、公務員の過失を【エ】過失と捉える裁判例が支配的となっており、個々の公務員の【ウ】を問題にする必要はないと思われる。したがって、【ア】説、【イ】説は、解釈論上の道具概念としての意義をほとんど失っているといってよい。
(最三小判令和2 年7 月14 日民集74 巻4 号1305 頁、宇賀克也裁判官補足意見)
ア | イ | ウ | エ | |
---|---|---|---|---|
1 | 代位責任 | 自己責任 | 有責性 | 組織的 |
2 | 代位責任 | 自己責任 | 有責性 | 重大な |
3 | 代位責任 | 自己責任 | 職務関連性 | 重大な |
4 | 自己責任 | 代位責任 | 有責性 | 組織的 |
5 | 自己責任 | 代位責任 | 職務関連性 | 重大な |
正解:1(ア:代位責任 イ:自己責任 ウ:有責性 エ:組織的)
この問題は、国家賠償法第1条第1項に関する解釈と、それに基づく国家の賠償責任の性質を等ものです。
ア:代位責任
【ア】説は、国家賠償責任を公務員個人の責任に基づく代位責任として理解する立場です。
この立場は、加害行為を行った公務員個人として責任を負うべき場合、国家がその責任を代わりに負うものと考えるものです。
したがって、公務員個人の責任を前提とし、公務員またはその行為が特定できない場合、公務員に故意・過失がない場合、国家賠償責任は生じないことになります。
イ:自己責任
【イ】説は、国家賠償責任を国家自信の責任として理解する立場です。
この立場では、公務員の行為が国家活動として行われた場合、その結果としての損害についても国家が責任を負うと考えます。
したがって、公務員個人を特定したり、故意・過失の存在がなくとも、国家賠償責任が認められる余地があります。
ウ:有責性
【ウ】に入るのは「有責性」です。
【ア】説(代位責任説)の前提には、加害公務員個人の故意又は過失があります。
この要件を満たさなければ、公務員本人に責任が認められることはなく、国家に代位責任が生じることもありません。
エ:組織的
【エ】に入るのは「組織的」です。
国家賠償法第1条第1項の責任について、判例では、公務員個人の有責性だけでなく、国家や公共団体の「組織的な過失」が問題となるとの考えを示しています。
(補足)判例の趣旨
判例(最一小判昭57.4.1)では、「加害公務員の特定やその行為の詳細が明確でなくても、一連の職務行為の中に違法行為が存在し、それによって損害が生じた場合には、国家または公共団体に損害賠償責任が生じる」としています。
これは【イ】説(事故責任説)の考え方に基づくものと考えられるものの、裁判所は明確に【ア】説か【イ】説かを示していません。
裁判所は個々の事案に応じ、柔軟に国家賠償責任を認めているため、判例学習が肝ですね。