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問題4
国務請求権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。
2 立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。
3 憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。
4 憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。
5 憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨すう勢せいをふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。
正解:3
1:不適当
日本国憲法第16条では、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の改廃その他の事項に関して平穏に請願する権利」を保障しています。
しかし、請願を受けた期間が請願の内容について、審理および判定する法的義務まで課すものではありません。
請願への対応は機関側の裁量に委ねられるため、当設問は不適当です。
2:不適当
立法行為と国家賠償に関する判例(最判昭和60年11月21日)からの出題だと思われます。
当該判例の論点は、立法しなかったこと(立法不作為)について、国家賠償責任の対象となるかどうかですが、判例は、「国会の立法行為は、基本的に国家賠償責任を問わない」としています。
しかし、例外として「憲法の明白な違反がある場合」には、違法性を認める余地があるとも述べています。
設問では、「立法行為は国家賠償の対象とならない」としている点について、判例では、立法行為も国家賠償の対象になる場合があるとしている点が誤りです。
また、「立法不作為は例外的に国家賠償が認められる」ともありますが、判例は、立法不作為についても極めて限定的な場合にしか違法性を認めないとしており、条件の厳しさを誤解させる記載となっています。
したがって、当設問は不適当です。
(補足1)判例と設問の解釈
下記に、判例と当設問との比較をまとめます。
立法行為 | 正 | 通常は国家賠償の対象外だが、憲法の明白な違反がある場合のみ例外的に認められる |
誤 | 立法行為について「国家賠償の対象とならない」と断言している点が判例と異なる | |
立法不作為 | 正 | 特定の立法義務が課されている場合に限り、例外的に国家賠償が認められる |
誤 | 立法不作為についても、例外的な場合に認められることを正しく伝えていない |
(補足2)誤りだと見抜く視点
当設問は、2つの視点から誤りだと見抜くことができます。
1つは、設問全体の文脈が判例と一致していないとする全体的な違和感。
他方は、「立法行為も例外敵に国家賠償の対象となる可能性がある」という点に焦点を当てるものです。
いずれも判例を正しく解釈するものですが、各解説者の特定観点により解説に違和感を抱くこともあるかもしれません。
3:妥当
憲法第32条は、「裁判を受ける権利」を保障し、特に、刑事事件は憲法第31条の適正手続の保障と連動するものです。
刑罰を科す場合、裁判所の裁判を要し、自由権的な性質が含まれるものと考えられます。
したがって、当設問は妥当です。
4:不適当
憲法第40条では、「抑留または拘禁された後に無罪の裁判を受けた場合、国に補償を求める権利」を保障しています。
しかし、少年事件における不処分決定については、無罪の裁判には該当しません。
したがって、当設問は不適当です。
(補足1)少年事件における不処分決定とは
少年事件は、刑事事件手続とは別に、少年の保護を目的とする少年法に基づいた「非訟手続」として処理されます。
少年事件における不処分決定とは、調査の結果、家庭裁判所が保護処分を不要と判断して事件を終了させることを指します。
そのため、不処分決定を下す非訟事件は、刑事裁判における有罪・無罪の判断とは性質を異にし、無罪の裁判には該当しないのです。
不処分決定のケースにおいて、抑留または拘禁が発生した場合であっても、通常は保障の対象となりません。
5:不適当
憲法第82条では、「裁判の公開」を定めています。
当該規定は、特に、訴訟事件に適用されるものとして、公開の法廷での対審・判決を原則とします。
一方で、非訟事件は対象外とされるものの、「純然たる訴訟事件」において非公開で柔軟な処理を認めた判例は今日において存在しません。
したがって、当設問は不適当です。