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【過去問】(令和5年問題1)基礎法学

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当ページでは、令和5年度行政書士試験の問題1について、解答と各選択肢、解答方法を解説します。

正解:1

はじめに

当設問は、裁判事務心得を知らなくても解答を導くことが可能です。

問題文の「民事の裁判に成文の法律なきものは【ア】に依り【ア】なきものは【イ】を推考して裁判すべし」の部分について、簡単に言うと、「法律に規定されていない場合は、何を基に裁判を進めるべきか」を考えることになります。

こうなると、アに「先例」を代入する選択肢(2、3、5)は消え、残るは1と4を比較検討することになります。

下記に、明治8年太政官布告103号裁判事務心得第3条の条文を引用します(出典:明治8年太政官布告第103号「裁判事務心得」第3条)

「法律ニ規定ナキ事件ハ習慣ニ依リ裁判シ然ル後尚解釈スヘキ習慣ナキトキハ条理ヲ按シテ裁判スヘシ」
(現代語訳:法律に規定のない事件は、習慣に従って裁判を行い、更に解釈すべき習慣もないときは条理を考慮して裁判を行うべきである)

ア.習慣

「はじめに」で触れましたが、当設問の前文は、「法律に規定されていない場合、何を基に裁判を進めるべきか」を考えることになります。

解答となる「慣習」とは、特定の社会や集団において、長期間繰り返され、自然に受け入れられてきた行動や規範のことを指し、商取引における共通のやり方や、成文法・公序良俗に反しない限り、法的拘束力を持つと考えられています。

この考え方を知らない場合や、裁判事務心得3条を知らない場合でも、受験生の多くが目にする民法第92条に、「任意規定と異なる異なる慣習・・は、これに従う」と規定されています。

他の選択肢と悩んだ受験生の中には、判例を「先例」と認識した方もいるのではないでしょうか。
国家試験の性質上、判例という言葉を避けることはほとんどないため、純粋に捉えられたかどうかが分かれ道となったものと推察します。

イ.条理

次に、イを検討します。

設問の「【ア:慣習】なきものは【イ】を推考して裁判すべし」から、慣習がない場合に判断基準となるものを探ります。

解答となる「条理」とは、一般的な公平・正義・合理性の観点から導き出される法の原則を指し、契約自由の原則や信義則(信義誠実の原則)が代表例です。

条理より慣習が優先される理由は、慣習が社会や地域などで実際に行われている規範であり、具体性や明確性が高いからです。

アの時点で「習慣」を選択できた受験生は、悩む必要もなかったかもしれませんね。

ウ.罪刑法定主義

次に、ウに入る語句を検討します。

設問には、「【ウ】の支配する刑法では罰則の欠如は当の行為につき犯罪の成立を否定する趣旨であるから、それは「法の欠如」ではない。」とあります。

簡単に言い換えると、「【ウ】を原則とする刑法では、対象行為に対する罰則が定められていない場合には、その行為は犯罪ではないと考える。したがって、罰則がないことそのものは「法律が欠けている」という意味でない」となります。

選択肢を見ると、「罪刑法定主義」、「適正手続」、「責任主義」とありますが、設問で強調される「罰則がないことが法律そのものの欠けとはいえない」の点から、罪刑法定主義が導き出されます。

(補足1)罪刑法定主義とは

罪刑法定主義とは、どのような行為が犯罪に該当し、どんな罰則を科すかは法律で明確に定められていなければならないとする原則をいいます。

ここで、罪刑法定主義以外の選択肢を選んだ受験生は、これらが刑法や法制度に関連がありそうだと判断されたのだと思いますので、下記にそれぞれの意味を解説します。

(補足2)適正手続とは

適正手続(due process)とは、法律の手続が公正であるべきという原則を指します。

刑事手続全般に関わる理念なので、罰則の欠如と関連付けてしまう可能性は高いのだと思います。

しかし、設問では「罰則がない行為は犯罪ではない」と主張しており、手続の正当性は問題外です。

したがって、「適正手続」では文章として成り立たなくなってしまいます。

(補足3)責任主義とは

責任主義とは、刑罰を科すには、行為者に責任が必要であるという刑法の基本原則を指します。

分かりやすく言えば、「故意または過失がある場合にのみ責任を問える」とする考え方です。

設問のうち、「罰則がない」という点を「責任を問われない」、又は「犯罪の成立を否定する」を「責任がないから犯罪が成立しない」と誤解した受験生もいるのかもしれません。

問題文をよく見ると、「罰則の有無」に焦点が当たっており、故意・過失の有無について触れるものでないことがわかるかと思います。

したがって、ここで「責任主義」を選択すると意味がチグハグになってしまいます。

エ.裁判の拒否

最後に、エについて検討します。

設問は、「民事裁判では、法の欠如があっても当事者に対して【エ】(フランス民法4条)をすることはできず(憲法32条参照)、また、当然に原告を敗訴にすることはもちろん法の趣旨ではない。」とあります。

これを言い換えると、「民事裁判では、法律が整備されていない問題について、裁判所が当事者を【エ】することはできず、また、法律がないからといって原告を敗訴とするのは当然とはいえない」となります。

選択肢から、「裁判の拒否」「和解の勧奨」のいずれかを検討します。

文中にフランス民法4条、日本国憲法32条が登場しますが、各肢を当てはめて読むと後者は違和感を覚えることから、条文知識がなくとも導き出せたかもしれませんね。

法の欠如とは

法の欠如とは、対象となる事案について、明確な規定が法律にないことを指します。

民事裁判では、明確な法律がない場合でも裁判所に判断を求めることが可能です。

和解は、裁判所が当事者に解決を促す手段の1つですが、裁判拒否の場合、そもそも裁判所が関与していない状態を意味するため、根本的に意味が異なってしまうことから、「裁判の拒否」を導き出すことができます。

フランス民法第4条

フランス民法第4条では、裁判官が法律がないことを理由に裁判を拒否することを禁じています。

この概念を借り、当設問が作成されたことがわかります。

日本国憲法第32条

日本国憲法は、裁判を受ける権利を保証するものです。

これにより、裁判所はすべての事件について裁判を行う義務を負い、法がないことを理由に裁判を拒否すれば、当該義務を侵害するものとして法の趣旨に反します。

当設問への対処法

当設問は、文の空欄に適切な語句をいくつかの選択肢の中から選ぶ形式で、文脈理解に関する能力が試されます。

そのため、下記を意識することをオススメします。

  1. 文全体の意味を把握する
  2. 選択肢ごとの語句の意味を確認する
  3. 文脈から予測する
  4. 誤った選択肢から排除する

法律に関する問題では、関連する法的原則や用語理解がポイントとなることが多いことから、これらを意識して解答することで、迷いやすい問題も正しい選択肢を選ぶことができるようになるかと思います。

出典情報

当設問は、団藤重光氏の「法学の基礎【第2版】」より一部省略して出題されたものです。

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