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当ページでは、労災保険に係る「療養(補償)等給付」で受けられる補償内容、必要な手続、注意点を解説します。
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療養(補償)等給付とは
療養(補償)等給付とは、勤務中、通勤中に生じた事由に起因する病気やケガの治療について、労災保険で補償されるものをいいます。
療養補償給付と療養給付の違い
療養(補償)等給付は、「療養補償給付」「療養給付」に大別され、それぞれ次の特徴があります。
療養補償給付 | 業務災害による傷病等を補償 |
療養給付 | 通勤災害による傷病等を補償 |
要するに、対象となる傷病等の要因により区別されるわけですね。
業務災害とは
業務災害とは、業務上の負傷、疾病、傷害、死亡を指し、これらの事由に「業務起因性」「業務遂行性」があることが要件となります。
業務起因性 | 怪我、病気の原因が業務にあること |
業務遂行性 | 怪我、病気の原因となった作業が「業務」として認められること |
通勤災害とは
通勤災害とは、通勤中の負傷、疾病、障害、死亡を指します。
通勤については、「就業するための移動であったこと」を要件とし、具体的に、次のように定義されています。
- 住居と就業場所との往復
- 就業場所から他の就業場所への往復
- 往復に先行し、または、後続する住居間の移動で、所定の要件に該当するもの
受けられる給付
業務災害または通勤災害だと認められた場合、労災保険により、次の給付を受けることができます。
- 初診料
- 診察代
- 入院費
- 手術費
- 治療に必要な一定の装具、器具購入費
- リハビリ費
- 薬代
- 自宅療養等にかかる看護費
- 通院費
- 移送費など
これら全てが必ず受けられるわけではなく、被災労働者が負った傷病等の性質や程度に応じ、一般的な視点から「治療による効果の有無」を考慮し、受給の可否が判断されます。
通院費の支給要件
通院費について、下記の要件を満たす必要があります。
- 同一市町村内の治療に適した医療機関への通院
- 1に適合する医療機関がないため通院する、隣接する市町村内の医療機関
- 1、2に適合する医療機関がないことを理由に通院する、隣接する市町村以外にある最寄りの医療機関
上記は必ず満たさなければならないわけではなく、通院先の医療機関を選んだ動機に合理性があれば、通院費として認められる場合があります。
給付方法の区別
療養(補償)等給付の方法は、下記のように区別されます。
- 療養の給付
- 療養の費用の支給
1.療養の給付
療養の給付は、労災病院、労災保険指定医療機関において治療を受ける場合に行われます。
具体的には、「医療機関で受けられる治療」が給付され、被災労働者は医療機関の窓口にて、治療費を負担する必要がありません。
2.療養の費用の支給
療養の費用の支給は、労災病院、労災保険指定医療機関以外の医療機関において治療を受ける場合に行われます。
指定医療機関等で治療を受ける場合とは異なり、被災労働者は治療費等を全額支払う必要がありますが、後日、労災保険から還付を受けることができます。
ざっくり言えば、受診機関、立替の要否が両者の違いです。
療養(補償)等給付の支給期間
療養(補償)等給付の支給は、原則、傷病が治癒するまでの期間です。
治癒とは、医学的に見て、一般的な治療を行っても治療の効果ができない状態を指します。
治癒後も痛みがある等、生活に支障を来す状態を抱えている場合、後遺障害等の問題となります。
療養(補償)等給付の請求方法
療養(補償)等給付の申請について、下記の手続が必要です。
(1)労災病院・労災保険指定医療機関を受診した場合
労災病院または労災保険指定医療機関を受診した場合、下記の書類を医療機関の窓口に提出します。
上記の様式は、医療機関の窓口にて受け取ることができます。
(2)労災病院・指定医療機関以外で治療を受けた場合
労災病院または労災保険指定医療機関以外の医療機関にて治療を受けた場合、窓口にて全額を精算し、事業上の所在地を管轄する労働基準監督署長に対し、下記の書類に治療費等の領収書を添付し、提出します。
業務災害の場合 | 様式第7号「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」 ※薬局、柔道整復師、鍼灸、訪問看護等により様式が異なります※ |
通勤災害の場合 | 様式第16号の5「療養給付たる療養の費用請求書」 |
(3)通院費の請求
通院・入院にかかる交通費を請求する場合、下記の書類を労働基準監督署長に提出する必要があります。
- 通院移送費等請求明細書
管轄の労働基準監督署により様式が異なりますが、「交通手段」「通院区間」「通院回数」「請求金額」を記載する必要があります。
自家用車で通院した場合、通院経路を記載した地図、タクシーを利用した場合、タクシーの利用が必要な旨を医師に証明してもらう必要がありますので、事前に確認しましょう。
療養(給付)等請求後の手続
療養(給付)等請求を行った後、支給決定となれば、被災労働者に支給決定通知が送付されます。
労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関を受診した場合、申請から入金まで概ね1か月を要しますので、立替が難しい場合には、労災病院等の受診をお勧めします。
療養(給付)等給付以外に受けられる内容
労災保険では、療養(補償)等給付以外について、次の給付が受けられる可能性があります。
給付 | 内容 |
---|---|
休業補償給付 休業給付 | 労災による傷病に関し、療養のために仕事ができず、賃金を受けられない場合の給付 |
障害補償給付 障害給付 | 労災による傷病が完治せず、後遺障害が残った場合に受けられる給付または一時金 |
遺族補償給付 遺族給付 | 労災により被災労働者が死亡した場合、遺族が受けられる年金または一時金 |
葬祭料 葬祭給付 | 労災により死亡した労働者の葬祭に関する給付 |
傷病補償年金 傷病年金 | 労災による傷病について、療養開始後1年6か月を経過しても完治しない場合の給付 ※一定等級以上への該当が要件です※ |
介護補償給付 介護給付 | 障害補償年金、傷病補償年金の受給者について、介護を受けている場合に受けられる給付 ※一定等級以上への該当が要件です※ |
会社に損害賠償請求できる場合もある
労災保険により十分な補償が受けられない場合、会社に対し、次の根拠に基づいた損害賠償請求ができる場合があります。
安全配慮義務違反 (民法第709条) | 労災の発生について、会社が安全確保のために必要な配慮を怠ったことが原因である場合、会社が損害賠償責任を負います |
使用者責任 (民法第715条) | 労災の発生について、他の従業員等の故意・過失が原因である場合、原則、原因となった従業員と共に、使用者である会社も損害賠償責任を負います |
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、労働基準法に定められる「会社が従業員の健康、安全面を考慮し、危険にさらされないよう配慮する義務」を指します。
安全配慮義務に違反したかどうかの判断は「予見可能性」「結果回避可能性」から下されます。
いずれの可能性もありながら、回避に必要な措置を講じなかった場合、使用者は安全配慮義務違反による損害賠償を行うこととなります。
安全配慮義務による損害賠償請求は
(1)権利を行使できることを知ったときから5年間または権利を行使できるときから10年(債務不履行責任による場合)
(2)損害および加害者を知ったときから5年間または不法行為のときから20年間(不法行為による場合)
のいずれかの時効にかかります。
損害賠償請求の方法
損害賠償を請求する場合、まずは示談交渉からはじめ、調停、民事裁判へと進んでいくことになります。
これらの交渉は専門知識が必要なだけでなく、心身的な負担も大きいため、弁護士に任せることをオススメします。
労災保険で受けられる補償内容、請求手続、注意点まとめ
当ページでは、労災保険で受けられる療養(補償)等給付の内容、要件、請求手続と注意点を解説しました。