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当ページでは、自然災害等の影響により、被災前に契約した住宅関連ローンの支払ができない人を対象とした債務整理の方法、「自然災害債務整理ガイドライン」のメリット、手続の流れを解説します。
Contents
- 自然災害債務整理ガイドラインとは
- ガイドラインの対象災害
- ガイドラインの対象となる債務者、債権者
- 1. 債務者
- 2.債権者
- ガイドラインの利用状況
- ガイドライン利用によるメリット
- ガイドラインを利用の流れ
- 1. 手続着手の申出
- 2.登録支援専門家の支援依頼
- 3.債務整理開始の申出
- 4.調停条項案の作成
- 5.調停条項案の提出、説明
- 6.特定調停の申立
- 7.調停条項の確定
- 自然災害債務整理ガイドラインに関する質問集【Q&A】
- 1.過去に発生した災害について、本ガイドラインに基づく債務整理を受けることはできますか。
- 2. ガイドラインに基づく債務整理と、破産手続・民事再生手続きの違いは何ですか。
- 3.「災害の影響を証明する資料」の提出は必要ですか。
- 4.「既往債務を弁済することができない又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること」とはどのような状態ですか。
- 5.「弁済について誠実であり、その財産状況を対象債権者に対して適正に開示している」とはどのような状態ですか。
- 6.「期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りではない」とはどのような状態ですか。
- 7.「破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できる」とはどのような状態ですか。
- 8.「債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性がある」とは、どのような状態ですか。
- 9. 対象債務がカードローン・消費者金融借入のみでもガイドラインは利用できますか。
- (1) 免責不許可事由とは
- 10. 登録支援専門家への依頼手続は、どのように行えばいいですか。
- 11. 債務整理の申出に必要な書類を教えてください
- 12. 自ら選任した代理人弁護士・税理士等に手続き支援等を依頼することはできますか。
- 13. 一時停止の開始日前に売掛債権に担保を設定している場合、どうなりますか。
- 14. 調停条項案の提出期限に遅れた場合、どうなりますか。
- 自然災害債務整理ガイドラインの対象とメリット、手続きの流れまとめ
自然災害債務整理ガイドラインとは
自然災害債務整理ガイドラインとは、債務者が自然災害の影響により、住宅ローン・リフォームローン等の既往債務を弁済できなくなった場合、債権者との合意により債務整理を行う「準則形私的整理」と呼ばれる債務整理方法です。
本ガイドラインの利用により、住宅ローン等を借りる被災者が法的な倒産手続(自己破産等)ではなく、金融機関との話し合いによるローンの減額・免除を受けられる可能性があります。
ガイドラインの対象災害
本ガイドラインの対象となるのは、東日本大震災、および平成27年9月2日よりも後に災害救助法の適用を受けた自然災害です。
令和6年7月9日からの大雨災害、7月25日からの大雨にかかる災害も対象に含まれています。
ガイドラインの対象となる債務者、債権者
本ガイドラインの対象者について、「債務者」「債権者」に分けて解説します。
1. 債務者
本ガイドラインの対象となる債務者は、下記すべての要件を満たす人です。
- 住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが災害の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。
- 弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること。
- 災害が発生する以前に、対象債権者に対して負っている債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない。
- 本ガイドラインに基づく債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。
- 債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること。
- 反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
- 破産法に規定される免責不許可事由に相当する事実がないこと。
2.債権者
本ガイドラインの対象債権者は、原則、下記の金融機関等です。
- 銀行
- 信用金庫
- 信用組合
- 労働金庫農業協同組合
- 漁業協同組合
- 政府系金融機関
- 貸金業者
- リース会社
- クレジット会社及び債権回収会社並びに信用保証協会
- 農業信用基金協会等及びその他の保証会社
具体的には、特定調停手続による本ガイドラインに基づいた債務整理が成立した場合、このことで権利関係に変動が生じる債権者で、既存の債権者から債権を譲渡されたサービサーまで含みます。
ガイドラインの利用状況
自然災害債務整理の利用状況について、令和5年(2023年)12月末時点において、次の通りです。
事案 | 自然災害案件 | コロナ案件 | 合計 |
---|---|---|---|
1.登録支援専門家に手続支援を委嘱した件数 | 1,220件 | 2,440件 | 3,660件 |
1-1.手続中の件数 | 30件 | 392件 | 422件 |
1-2.特定調停の申立てに至っている件数 | 6件 | 24件 | 30件 |
2.債務整理成立件数 | 591件 | 410件 | 1,001件 |
これらの数字を多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれですが、自然災害案件のうち、「特定調停の申立てに至っている件数」「債務整理成立件数」から、必ずしも特定調停を申し立てずとも債務整理が成立する可能性があることがわかります。
ガイドライン利用によるメリット
本ガイドラインの利用により、下記のメリットが考えられます。
- 費用が良心的
- 信用情報機関に登録されない
- 財産の一部が手元に残る
- 保証人に請求されない
1.費用が良心的
一般的な債務整理に用いられる方法では、破産法・民事再生法に基づき、申立費用(予納金等)を債務者が負担することになります。
また、申立を弁護士等の専門家居に依頼する場合、報酬を支払わなくてはならず、債務者には金銭的・精神的なプレッシャーがかかるでしょう。
これに対し、本ガイドラインに基づく債務整理の申出では、原則、費用がかかりません。
後述する登録支援専門家への報酬も不要なため、債務者の負担が軽いという特徴があります。
ただし、特定調停の申立てをする場合、手数料および予納金等を負担する必要がありますが、一定要件をクリアすることで無料の取扱いを受けられることもあります。
国の補助により、本ガイドラインにかかる費用はかからないんですね。
2.信用情報機関に登録されない
破産法・民事再生法に基づく手続と異なり、本ガイドラインに基づく債務整理は「個人信用情報」として登録されません。
信用情報とは、クレジットカード、割賦販売、各種ローン等の契約につき、契約内容・支払状況等の客観的な事実を登録した情報を指します。
クレジットカード等、後から支払いが必要となる契約を行う場合、申込時に本人が提供する申込情報と、JICC等の信用情報機関に登録された信用情報を照会し、本人の支払い能力を判断することになります。
このため、今後の取引等を考えた場合、なるべく信用情報登録はされないのが望ましいといえます。
3.財産の一部が手元に残る
破産手続を行った場合、債務者が手元に残せる財産の上限額は、原則、差押禁止財産を除いて99万円です。
いっぽう、本ガイドラインによる債務整理では、差押禁止財産のほかに現預金等500万円、家財保険金250万円をそれぞれの上限目安として運用されており、より多くの財産を手元に残すことができます。
破産法上、自宅は換価処分されますが、本ガイドラインでは債務者に「処分」または「温存」の選択肢が与えられます。
4.保証人に請求されない
対象債務が金銭消費貸借等の場合、債権者は保証人に対し、保証債務の支払を求めるのが一般的です。
しかし、本ガイドラインによる債務整理を行う場合、原則、個人の保証人に対しての保証債務の履行請求は行われません。
対象債務者の対象債権者に対する債務を主たる債務とする保証債務がある場 合、主たる債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主たる債務 を弁済できないことを踏まえて、以下の事情等を考慮して、保証履行を求めるこ ( 9 とが相当と認められる場合を除き、保証人(ただし、個人に限る。以下同じ。)に 対する保証履行は求めないこととする。
① 保証契約を締結するに至った経緯、主たる債務者と保証人の関係、保証による利益・利得を得たか否か等を考慮した保証人の責任の度合い
② 保証人の収入、資産、災害による影響の有無等を考慮した保証人の生活実態
なお、保証人に対して保証履行を求めることが相当と認められる場合には、当 該保証人についても、主たる債務者とともに調停条項案を作成し、合理的な範囲 で弁済の負担を定めるものとする。
ガイドラインを利用の流れ
本ガイドラインを利用する場合、下記の流れで手続きを行いましょう。
- 手続き着手の申出
- 登録支援専門家の支援依頼
- 債務整理開始の申出
- 特定調停条項案の作成
- 提出、説明
- 特定調停の申立
- 調停条項の確定
1. 手続着手の申出
最も多額のローンを借りている金融機関(メインバンク)に対し、自然災害債務整理ガイドラインに基づく手続着手を希望する旨を申出ます。
申出を受けたメインバンクは、概ね10営業日以内に同意または不同意の意思表示を行いますが、対象債務者が要件を満たさないことが明白でない限り、不同意は許されません。
このため、債務者側で要件確認は慎重に行う必要があります。
2.登録支援専門家の支援依頼
メインバンクから同意を得られたら、登録支援専門家に支援を依頼します。
登録支援専門家とは、本ガイドラインに基づく債務整理を的確・円滑に実施するため、債務者・債権者のいずれにも利害関係のない支援者を指します。
具体的には、下記のものです。
- 日本弁護士連合会及び弁護士法第 31 条に規定する弁護士会
- 日本公認会計士協会及び各地域会
- 日本税理士会連合会及び各税理士会
- 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会及び各不動産鑑定士協会
登録支援専門家は公正中立な立場とされ、対象債務者の代理人ではありません。
2-1. 登録支援専門家の業務
登録支援専門家は、債務者に対し、下記の支援を行います。
- 債務整理の申出
- 債務整理の申出に必要な書類の作成および提出
- 調停条項案の作成
- 調停条項案の作成に係る利害関係者間の総合調整
- 調停条項案の対象債権者への提出および説明等
- 特定調停の申立てに係る必要書類の作成および申立て後、特定調停手続の終了までの手続実施
3-2. 支援専門家登録簿
本ガイドラインに基づく登録申請を受理した場合、業務経験の年数その他の基準に照らし、登録を行った者について、下記を記載した登録簿を作成し、一般公開されます。
氏名 | 法人所属の場合でも、登録は個人名 |
事務所または営業所の名称 所在地 連絡先 |
3-3. 登録支援専門家への委嘱
本ガイドラインに基づく申出を行う債務者からの依頼に対し、対象債務者・対象債権者のいずれにも利害関係を持たない者を運営機関に推薦し、運営機関から登録支援専門家に委嘱を行います。
支援依頼は、弁護士会等を経由して行いますが、実際に委嘱権限をもつのは運営機関(東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関)です。
3.債務整理開始の申出
登録支援専門家に委嘱されると、すべての対象債権者に対し、債務整理開始の申出が行われます。
このとき、債務者は下記の書類を提出する必要があります。
- 財産目録
- 債権者一覧表 など
3-1. 申出の効果
債務整理開始の申出があった時点から、債務の返済・督促は最大6か月間「一時停止期間」となります。
一次停止期間の間は、債務者は新たな負債や担保の提供、一部債権者への弁済等が原則禁止されるため、債務者にとっては心理的な負担軽減が期待できます。
対象債務者 | その資産を処分すること 新債務を負担すること 一部の対象債権者に対する弁済・相殺等の債務消滅に関する行為 物的人的担保の供与 など ※通常の生活または事業過程によるもの、全ての対象債権者が同意した場合を除く |
対象債権者 | 一時停止開始日の「与信残高」を維持し、他の対象債権者との間で、対象債務者に対する相対的地位の改善をすること 弁済を受けること 相殺権を行使すること 追加の物的人的担保の供与を求めること 担保権を実行すること ※保証会社等による保証付貸付の場合、対象債権者が当該保険会社から代位弁済を受けることは認められる |
一時停止期間は、本ガイドラインに基づく債務整理終了日までで、対象債権者全員が同意すると、追加融資を認めることもできます。
3-2. 債権者が異議を述べられる場合
下記に該当する場合、対象債権者は債務整理について、異議を述べることができます。
- 債務者要件を満たさないことが明らかであると認められる場合
- 一時停止期間中に禁止される行為について、債務者の違反が判明した場合
- 必要書類に明らかな不備があるにもかかわらず、相当の期間内に補正されない場合
4.調停条項案の作成
債務者は、申出から3か月以内に調停条項案を作成し、登録支援専門家を経由して、債権者全員に提出しなければなりません。
4-1. 調停条項案とは
調停条項案とは、調停において、債権者側に提示する内容をまとめたものを指し、下記を記載する必要があります。
① 対象債務者が非事業者(住宅ローン等の債務者)又は本項(2)②に該当しな い個人事業主である場合 | イ | a 債務の弁済ができなくなった理由(災害による影響の内容を含む。) b 財産の状況(財産の評定は、対象債務者の自己申告による財産について、原則として、財産を処分するものとして行う。) c 債務弁済計画(原則5年以内) d 資産の換価・処分の方針 e 対象債権者に対して債務の減免、期限の猶予その他の権利変更を要請 する場合はその内容 |
ロ | 将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある対象債務者が、対象債権者に対して、分割払いの方法による期限の猶予とともに債務の減免を要請する場合 対象債権者に対する調停条項に基づく弁済の総額は、対象債務者の収入、資産等を考慮した生活実態等を踏まえた弁済能力により定めるものとし、また、破産手続による回収の見込みと同等以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できる内容としなければならない | |
ハ | ロに該当しない対象債務者が対象債権者に対して債務の減免を要請する場合、当該対象債務者が申出の時点において保有する全ての資産を処分・換価して、当該処分・換価により得られた金銭をもって、担保権者その他の優先権を有する債権者に対する優先弁済の後に、全ての対象債権者に対して、それぞれの債権の額の割合に応じて弁済を行い、その余の債務について免除を受ける内容とするものとする ※将来において、継続的に、又は反復して収入を得る見込みのある対象債務者が同様の内容とすることは認められる | |
② 対象債務者が事業から生ずる将来の収益による弁済により事業の再建・継続を図ろうとする個人事業主である場合 | イ | a 事業見通し(売上・原価・経費) b 収支計画 c 災害発生以前においても、既に事業利益が赤字であったときは、赤字の原因とその解消の方策を記載するとともに、申立てによる特定調停成立日の属する年の翌年から概ね5年以内を目途に黒字に転換することを内容とする ※ただし、これを超える合理的な期間とすることを妨げない |
ロ | 破産手続による回収の見込みと同等以上の回収を得られる見込みがある など、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できることを内容とする |
4-2. 対象債権者に債務の減免を要請する場合
債務者が債権者に対し、債務の減免を求める場合、下記の事項を調停条項案に含める必要があります。
- 調停条項案作成日現在において、財産目録に記載の財産以外に、時価 20万円以上の資産又は債権者一覧表にない負債を有していないことを誓約すること。
- 申立てによる特定調停手続の中で確定した調停条項に従った弁済期間中に、債務者要件のいずれかを充足しないことが判明した場合、又は誓約に反する事実が判明した場合は、債務者の責めに帰することができない事由が認められる場合を除き、債務免除や期限の猶予の合意にかかわらず、債務額全額を直ちに支払うことに予め同意すること。
5.調停条項案の提出、説明
債務者は、調停条項案提出後、同日中に債務者全員に対し、調停条項案の説明、質疑応答及び意見交換を行います。
この説明等は書面を交付して行うこともできますが、債権者の同意がある場合に限られるため、債権者説明会を開催することが多いです。
債務者は、必要に応じ、登録支援専門家に説明を求めることができますので、すべてご自身でしなければならない!と気負うことはありません。
5-1. 対象債権者からの回答
対象債権者は、説明等を受けた日から1か月以内に、対象債務者及び登録支援専門家に対し、調停条項案に対する「同意」「同意の見込み」「不同意」いずれかの回答をしなければなりません。
本回答は、登録支援専門家が取りまとめ、速やかに対象債権者全員に通知する義務を負います。
5-2. 不同意があれば債務整理不成立
調停条項案に対する対象債権者からの「不同意」があった場合、条項案の変更等を行い、協議を重ねても同意、または同意の見込みを得られなければ、本ガイドラインに基づく債務整理は不成立となります。
この場合、債務者は登録支援専門家を経由し、対象債権者全員に不成立を通知します。
6.特定調停の申立
期間内に全ての対象債権者から、同意あるいは同意の見込みを得た場合、債務者は、簡易裁判所に対して「特定調停」の申立てを行います。
6-1. 特定調停の流れ
特定調停を申し立てると、下記の流れで進んでいきます。
1 | 特定調停の申立て | 申立手数料:相手方1社あたり500円 予納郵便切手:相手方1社あたり430円 |
2 | 事情聴取期日の開廷 | 申立ての日から約1か月後に開かれ、申立人のみが出席し、調停委員に生活状況、収入、今後の返済方法に関する希望を伝える |
3 | 調整期日 | 事情聴取期日から2週間から1か月後に開かれ、当事者双方が出席し、返済方法に関する話し合いを行う |
4 | 調停成立 | 申立人(債務者)と対象債権者の希望が一致すると調停成立 |
6-2. 特定調停の注意点
特定調停における「調停期日」は、平日の午前10時から午後5時までの間に行われます。
このため、必要に応じ、仕事を休んで裁判所に通う必要がありますが、所要時間が不透明なうえ、場合により複数回通う必要がある点に注意しましょう。
最低でも平日に2度、足を運ぶ必要があります。
7.調停条項の確定
特定調停手続において、全ての対象債権者が調停条項案に同意し、特定調停手続が終了すれば本ガイドラインに基づく債務整理成立となります。
自然災害債務整理ガイドラインに関する質問集【Q&A】
1.過去に発生した災害について、本ガイドラインに基づく債務整理を受けることはできますか。
対象期間中であれば可能です。
本ガイドラインは、平成28年4月1日以降に、災害救助法の適用を受けた自然災害の影響を受けた個人の債務者であり、本ガイドラインの要件を満たす人が対象となります。
- 平成28年4月1日以降
- 災害救助法の適用を受けた自然災害
- 個人の債務者で、要件を満たす人
2. ガイドラインに基づく債務整理と、破産手続・民事再生手続きの違いは何ですか。
両者の違いは、下記のとおりです。
自然災害債務整理ガイドライン | 破産手続 民事再生手続 | |
裁判所の関与 | 緩やか | 積極的 |
信用情報登録機関への登録 | なし | あり |
手数料等 | 負担なし ※特定調停の申立て費用は必要 | 自己負担 |
手元に残せる金額 | 現預金500万円 家財保険金250万円 | 最高99万円 |
3.「災害の影響を証明する資料」の提出は必要ですか。
必要です。
「災害の影響を証明する資料」は、債務整理の申出直後の必要書類に含まれ、証明する内容は下記のとおりです。
個人 | 事業者 | |
---|---|---|
直接的 | 家具が倒壊損壊または消失流失等したこと | 事業所、事業設備等が倒壊損壊または消失流失したこと |
間接的 | 勤務先が被災し、失業または給料が下がったこと | 取引先・顧客等が被災し、売上が減少したこと |
例外 | 債務者が災害の影響により既往債務を返済できないこと、または近い将来に返済できないことが確実と見込まれることが確認できる場合には、当該資料がなくとも認められる |
具体的には、下記の資料を提出することになります。
家屋、事業所、事業設備等が損壊又は流失した場合 | 罹災証明書 被災証明書等 |
勤務先等が被災したことにより、収入または売上げが減少した場合 | 勤務先の罹災証明書 被災証明書等 過去の給与明細等 |
※合理的な事由により、公文書等がない場合は、陳述書に必要事項を記載する方法もあります。 |
4.「既往債務を弁済することができない又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること」とはどのような状態ですか。
「既往債務を弁済することができない」とは、債務者が資力を欠くため、災害の発生前から負担している債務(既往債務)について、約定通りの返済ができず、このような状態が以後も継続することが見込まれる状態を指します。
「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは、現在は約定通りに返済できているものの、債務者が資力を欠き、近い将来に返済できなくなることが確実だと見込まれる状態を指します。
自然災害債務整理ガイドライン | 破産手続 民事再生手続 |
---|---|
既往債務を弁済することができない | 破産手続の「支払不能」 |
近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる | 民事再生手続の「支払不能のおそれ」 |
具体的な数値は示されていませんが、債務者の財産・収入、信用、債務総額、返済期間、利率等の支払条件、家計の状況等を総合的に考慮して判断するものとされています。
例えば、自然災害により収入が途絶え、就労の見通しも立たない場合には「既往債務を弁済することができない」といえますし、貯蓄等により当面の間は約定通りに返済ができても、近い将来に明らかに返済ができなくなるような状況に置かれていれば、「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」場合に該当するものと考えられます。
5.「弁済について誠実であり、その財産状況を対象債権者に対して適正に開示している」とはどのような状態ですか。
債務整理の申出書、財産目録、債権者一覧表において、債務者が行う各記載に虚偽があると認められない限り、本要件は満たすものと考えられます。
6.「期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りではない」とはどのような状態ですか。
「期限の利益」とは、期限が到来しないことにより、当事者が受ける利益を指します(民法 第135条)
期限の利益を喪失させる時期について、下記に大別されます。
当然喪失 | 一定事由が発生した時点で期限の利益を喪失する方法 |
請求喪失 | 一定事由が発生し、債権者が請求した時点で期限の利益を喪失する方法 |
「期限の利益喪失事由」とは、一般的に下記を指します(民法 第137条)
- 債務者が破産手続き開始の決定を受けたとき
- 自ら担保をき滅し、又はこれを減少させたとき
- 担保を提供する義務を負いながらこれを供しないとき
ただし、当事者間の合意により、自由に内容を定められるため、銀行取引約定書等の「期限の利益喪失事由」をご確認ください。
7.「破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できる」とはどのような状態ですか。
「破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収見込み」とは、対象債権者にとって、経済的な合理性が期待できる場合の典型例です。
具体的には、(1)債務整理の開始段階で作成する調停条項案における民事再生手続と同等額以上の回収ができる可能性、(2)現在の資産を処分・換価して弁済する調停条項案における破産手続と同等額以上の回収ができる可能性が一定以上あることが求められます。
要するに、「債権者側が破産手続や民事再生手続を選んだ場合と比較し、損をさせないこと」を証明することになります。
8.「債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性がある」とは、どのような状態ですか。
一般的にみて、当該事業に収益性・将来性が認められる状態を指します。
本要件については、判断が特に難しい内容であることから、債務者が提出する必要書類に虚偽の記載があると認められる、又は災害発生前の事業状況から要件欠格が明らかでない限り、本要件を満たすものと考えられます。
9. 対象債務がカードローン・消費者金融借入のみでもガイドラインは利用できますか。
原則、災害の影響により既往債務が返済できない状態であれば、利用は可能だと考えられます。
ただし、破産手続きにおける免責不許可事由に相当する事由がある場合には、対象債務者として要件を満たせない可能性もあるため、各要件を確認しましょう。
(1) 免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、一定の事由がある場合、裁判所から免責許可をもらえない状況を指します。
具体的には、下記のとおりです(破産法第252条各項)
不当な破産財団価値減少行為 | 破産手続において、債権者に不利益な処分その他の財産価値を不当に減少させた場合 |
不当な債務負担行為 | 破産手続きの開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件による債務を負担し、又は信用取引による商品を買い入れ、不利益な条件で処分した場合 |
不当な偏頗行為 | 特定の債権者に特別の利益を与える目的、又は他の債権者を害する目的をもって、優先度が低いにもかかわらず、担保を供与、又は債務の消滅へとつながる行為に及んだ場合 |
浪費または賭博その他の射幸行為 | パチンコ・スロット等のギャンブル、株式やFX投資等の射幸行為により著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した場合 |
詐術による信用取引 | 破産手続き開始の原因となる事実があることを知りながら、この事実はないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引を行い、財産を取得した場合 |
業務帳簿隠滅等の行為 | 業務および財産にかかわる帳簿、書類その他の物件を隠す、偽造する、変造した場合 |
虚偽の債権者名簿提出 | 提出した債権者名簿に虚偽の記載がある場合 |
調査協力義務違反 | 裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をした場合 |
管財業務妨害行為 | 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害した場合 |
7年以内に免責を取得 | 過去7年間の間に自己破産し、免責許可を得ている場合 個人再生のうち、給与所得者等再生による再生計画を認可されている場合 |
破産法上の義務違反行為 | 破産法に定められる義務に違反した場合 |
上記のうち、最下段以外の条項は本ガイドラインの欠格要件から除かれますが、いずれにせよ、債務者要件を満たす必要がある点には注意が必要です。
10. 登録支援専門家への依頼手続は、どのように行えばいいですか。
債務者は、主な債権者に対し、本ガイドラインに基づく手続への着手申出を行い、同意を得た後で運営機関へ登録支援専門家の委嘱を求める必要があります。
個人事業主の場合、罹災等に伴い資料が滅失し、借入先ごとの正確な借入額がわからない場合は「概ね最大だと思われる対象債権者」をメインバンクと考え、申出れば足ります。
対象債務者は、債権者から受け取った同初書面を添付し、下記の団体を通じて運営機関に「登録支援専門家」を委嘱するよう依頼します。
- 弁護士:日本弁護士連合会および弁護士会
- 公認会計士:日本公認会計士協会および各地域会
- 税理士:日本税理士連合会および各税理士会
- 不動産鑑定士:公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会および不動産鑑定士協会
11. 債務整理の申出に必要な書類を教えてください
債務整理の申出に必要な書類は次の通りです。
- 住民票の写し
- 陳述書及び添付書類(給与明細書・源泉徴収票・課税証明書の写し等)
- 財産目録及び添付書類(預貯金通帳・証書の写し等)
- 債権者一覧表
- 家計収支表(直近2か月)
- 事業収支実績表(直近6か月、事業者の場合)
- 罹災証明書、被災証明書等
陳述書には、対象債務者が本ガイドラインに基づく債務整理を申出るに至った経緯などを記載します。
12. 自ら選任した代理人弁護士・税理士等に手続き支援等を依頼することはできますか。
本ガイドラインに基づく手続きを実施するには、「登録支援専門家」の支援を受ける必要があります。
登録支援専門家は、対象債務者・対象債権者いずれとも利害関係にない者から選任される必要があるため、原則、自身で選ぶことはできません。
ただし、登録支援専門家の支援を受けることに加え、自ら代理人弁護士等を選任することは問題ありません。
この場合、当該代理人への報酬等は、債務者自身で負担しなければならない点に注意しましょう。
13. 一時停止の開始日前に売掛債権に担保を設定している場合、どうなりますか。
一時停止期間中に担保の対象となる売掛金を回収した場合、対象債務者は、新たな売掛金債権を消滅した売掛金の代わりに担保として差し入れる等の措置をとる必要があります。
なぜなら、一時停止期間中は、対象債権者が「与信残高」を維持する義務を負うため、弁済期限が到来した担保として取得した売掛金の回収金を弁済に充てることができないためです。
原則、この場合の追加担保は禁止されません。
14. 調停条項案の提出期限に遅れた場合、どうなりますか。
提出期限を経過しても、対象債務者が調停条項案を提出しない場合、対象債権者から対象債務者、又は登録支援専門家に対し、提出要請を行います。
提出要請をしてもなお提出がなければ、債務整理の申出から6か月(合意がある場合は、合意により定めた日)をもって、本ガイドラインに基づく債務整理は終了となります。
自然災害債務整理ガイドラインの対象とメリット、手続きの流れまとめ
当ページでは、自然災害債務整理ガイドラインの対象とメリット、手続きの流れを解説しました。