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筆者プロフィール
榊原 沙奈(90′)
榊原行政書士事務所 代表行政書士
やぎ座のO型。趣味は写真を撮ること、神社をめぐること。
フリーランス保護法とは
フリーランス保護法とは、令和5年(2023年)5月12日に交付された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」の通称です。
フリーランス保護法の目的は、フリーランスの人が安心して働くことのできる環境を整備すること。
具体的には、(1)フリーランスと企業等の発注事業者の間の取引適正化、(2)フリーランスの人の就業環境の整備に関わる法律です。
フリーランス保護法の対象
フリーランス保護法の対象となるのは、発注事業者とフリーランス間の「業務委託」に係る事業者間取引です。
フリーランス保護法における「フリーランス」とは、業務委託の相手方で、従業員を使用しないものを指します。
いっぽう、発注事業者はフリーランスに業務を委託する事業者で、従業員を使用するものをいいます。
「従業員」とは、週の労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる人をいいます。短時間・短期間等で一次的に雇用する人は含みません。
フリーランス保護法の目的は、交渉力等に格差が生じるフリーランスと、大きな組織をもつ発注事業者との業務委託取引の適正化なので、発注時業者側もフリーランスの場合には適用外となります。
ただし、書面等による取引条件の明示義務については適用されますので、全く関係ないともいえません。
フリーランス保護法と下請法の違い
下請法で区別されている「修理委託」、「薬務提供委託」の定義について、フリーランス保護法では「薬務提供」に含まれます。
下請法では細かく分けていたものを、フリーランス新法ではまとめてしまうわけですね。
フリーランス保護法 施行時期
令和6年(2024年)2月現在、フリーランス保護法の施行時期は明示されていませんが、秋頃を目安に施行される見込みです。
フリーランス保護法のポイント
1.業務委託時における取引条件の明示
フリーランス保護法では、発注事業者がフリーランスに業務を委託する際、「給付内容(委託する業務の内容)」、「報酬額」、「支払期日」、その他 公正取引委員会規則で定められる事項を明示するよう義務づけています
明示は、次のいずれかの方法により行います。
- 取引条件を記載した書面を交付する方法
- 取引条件をメール等の電磁的方法により提供する方法
明示の時期は、業務委託をした場合には「直ちに」行うよう定められていますが、業務委託契約を結んだ時点で報酬額が決まっていないなど、内容が定められないことについて正当な理由がある場合は、これが決定した後でも構いません。
2.60日以内の報酬支払義務
フリーランス保護法では、フリーランスから成果物等を受け取ってから60日以内に報酬の支払期日を定め、期日内に報酬を支払うことを義務づけています。
発注事業者が別の人から受けた業務委託をフリーランスに委託する場合(再委託)、自身が受ける報酬支払の期日から起算して30日以内にフリーランスへの支払期日を定め、この期日までに支払う必要があります。
3.禁止事項の遵守
フリーランス保護法では、一定期間以上継続して行われる業務委託を対象に、発注事業者に下記の義務が課されます。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な刑事上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更、やり直し
(1)受領拒否
フリーランスに責任がない事由による、発注した物品等の受領拒否がこれに当たります。
「受領拒否」には、発注の取消し、納期の延期等による納品拒否も含みます。
(2)報酬の減額
発注時に定めた報酬額について、フリーランスに責任のない事由により、契約後に減額することをいいます。
協賛金の徴収や原価割れなど、名目や金額等に関わらず、理不尽な減額を全面的に禁じています。
(3)返品
発注した物品等を受領後、フリーランスに責任のない事由により返品することをいいます。
(4)買いたたき
発注する物品等と同種または類似の市場価格に対し、著しく低い報酬額を定めて発注することを禁止しています。
(5)購入・利用強制
フリーランスへの発注時、正当な理由なく発注事業者が指定する製品、原材料等やサービスを強制し、購入・利用させることをいいます。
(6)不当な経済上の利益の提供要請
不当な経済上の利益とは、業務委託契約とは別に「協賛金」「寄付金」等を指します。
発注事業者自身のために、フリーランスに金銭、サービス、その他の経済上の利益を庭球するよう求める事は禁止されています。
(7)不当な給付内容の変更、やり直し
フリーランスに責任のない事由による発注後の発注内容の変更、受領言やり直しや追加作業を請求する場合がこれに当たります。
発注内容の変更、やり直し等が全面的に禁じられるのではなく、変更・やり直しで生じる費用等をフリーランスに負担させることを禁じられています。
4.募集情報の明確化
フリーランス保護法では、発注事業者が広告塔によりフリーランスを募集する際、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つことが定められました。
具体的には、下記のような表示が禁止されます。
- 意図的に実際より高い報酬額を表示する
- 実際に募集を行っている企業とは別の名義で募集する
- 表示する報酬額が一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのような表示を行う
- 業務に必要な記事等をフリーランス側が用意する必要がある旨を記載しない
- 終了した募集を削除せず、表示し続けるなど
5.出産・育児・介護への配慮
フリーランス保護法では、フリーランスが育児や介護等と両立して業務を行えるよう、発注事業者に必要な配慮を求めています。
注意したいのは、業務委託の長さにより「義務」「努力義務」と配慮レベルが異なる点です。
業務委託のうち、政令で定める期間以上の期間行うもの(継続的業務委託)には配慮義務が課され、継続的業務委託以外の場合は配慮するよう努力する義務が課されます。
「政令で定める期間」について、具体的な数字は公表されていませんが、今後、政府が関係者の意見を確認しながら期間の設定を行う方針を示しています。
配慮の具体例として、フリーランスが妊婦健診・乳児健診等に必要な時間を確保するための終業時間短縮、育児・介護等との両立を目指した就業日・時間を設定する等が挙げられます。
これが配慮!と画一的な定めを置くことが難しいため、個々の事情に応じ、対処しましょう。
6.ハラスメント対策
フリーランス保護法では、発注事業者からフリーランスに対して行われるハラスメント行為に係る相談対応等の体制を整えることを義務づけています。
発注者が講じるべきとされるハラスメント対策措置の例は、次の通りです。
- ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に周知・啓発する
- ハラスメントを受けた人からの相談に適切に対応できる体制の整備
- ハラスメント発生時の迅速かつ適切な対応
これらは労働関係法令(男女雇用機会均等法等)に基づき講じるべき内容と同様なので、発注時業者側で労働関係法令に基づいた整備を活用すれば問題ありません。
何が「ハラスメント」に該当するのか、一義的な定義付けが困難なため、こちらも個々の事案に沿った判断を下すことになります。
7.契約打切・中途契約に関する事前予告
フリーランス保護法では、継続的業務委託を中途解除する場合、原則、中途解除日の30日前までに予告しなければなりません。
現状では、例外についての明確な定めは置かれていませんが、下記のものが該当すると考えられています。
- 天災等により業務委託の実施が困難となり、契約を解除する場合
- 発注事業者の上流発注者による突然のキャンセルにより、フリーランスとの契約を解除せざるを得ない場合
- 解除に関し、フリーランスに帰責事由がある場合など
フリーランス保護法への対応
フリーランス保護法の施行までに、発注事業者となる企業では下記の点を検討しましょう。
1.各様式のフォーマットを見直す
フリーランス保護法で明示義務として定められた内容が、業務委託契約書、募集内容等に反映されているか確認しましょう。
2.社内体制の整備
フリーランス保護法に対応する配慮措置、ハラスメント対策等に対応する機関、窓口を整備しましょう。
3.フリーランス保護法に関する内容の周知徹底
フリーランス保護法の内容を従業員に周知するよう努めましょう。
担当窓口は勿論ですが、他の従業員にも周知させることで、フリーランス側の不信感を払拭し、社外から「誠実な会社である」との認識を強める効果が期待できます。
フリーランス保護法の概要と必要な対応まとめ
当ページでは、フリーランス保護法の概要と事業者に求められる対応を解説しました。