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花びらは、誰に見られなくても咲く
歩道に貼りついた花びら一枚。灰色の車体に、そっと舞い降りた桃色の印。風が止まって、春だけが残っていた。


廃墟になった道端に、落書きがひとつ。かつての警告は誰にも届かず、赤いスプレーの文字だけがいまもなお、誰かに訴えかけようとしていた。

傾いた看板、朽ちた門、つたう蔦の緑は新しくても、構造物はもう、呼吸していない。

けれど、ふと見上げると、桜は迷いなく咲いていた。

電線の上に浮かぶ薄桃色の雲。鉄に絡む柔らかな命。
地面には、咲き終えた椿の花びら。けれど散ったあとも、そこには模様があり、色があり、誰かが見つけるまではきっとまだ、咲いているのだと思う。


道ばたで見つけたテントウムシは、小さな花にしがみついていた。

季節は巡る。無人の場所にも、ちゃんと春は来る。

それがこの地の、唯一の、変わらぬ約束。