無人区 vol.2 | 植物の楽屋

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植物の楽屋

 静かな温室のなか、今日も植物たちは出番を待つ。

 花を咲かせるもの、葉を広げるもの、少ししおれて、また持ち直すもの。表舞台のように飾られた花壇の外で、彼らは鉄骨の陰で、ホースのそばで、配管に寄り添って、静かに息をしている。

 むき出しのパイプ、錆びたネジ、網目状の足場。それらはどれも、植物を生かすための装置だ。

 だが、裏方のはずのそれらが、ふと主役のように見える瞬間がある。植物と構造物の距離はとても近くて、いつの間にか絡まり、もつれ合い、「どちらがどちらを支えているのか」そんな問いすら浮かぶ。

 管理された環境のなかで、制御されながらも自然のリズムを刻もうとする植物の姿は、どこか人間の暮らしにも似ている。決められたスペースに、与えられた道具に、限られた光と水に。それでも懸命に葉を広げ、どこかへ伸びようとする。

 舞台に立つ前の静けさ。光が差し込む前の、少しだけ緊張したような空気。

 この温室は、まさに植物たちの“楽屋”なのだ。

鉄骨の檻に咲く

鋼の構造に絡まりながらも、確かに咲く花々。管理と自由、支配と繁茂。その境界線が、ここでは曖昧になっていく。

光をすくう葉

人工の足場の隙間からこぼれる光を、葉は逃さず拾い上げる。命にとって、それが自然かどうかは関係ないのかもしれない。

窓の向こうの密やかさ

曇ったガラスの向こう側に、控えめに存在する緑。内部を守る装置の一部でさえ、どこか植物の一部のように見えてくる。

命を運ぶ管

ひっそりと地面に延びる配管。水を通し、根元へと命を届けるその姿は、まるで見えない脈動を支える血管のようだ。

ひとり咲く、楽屋の主役

葉陰に揺れる、ひと房の花。大勢の植物たちの中で、ひっそりとそれでも堂々と、ひとりだけ出番を迎えようとしている。

忙しさの名残

作業が止まったあとの静けさ。道具と鉢がそのまま残された棚の上には、育てる手の気配と、時の流れが滲んでいる。

赤と緑の交差点

育成途中の鉢たちの間に、色づいた花がひとつ。計画と偶然が重なって生まれた、その一瞬のバランス。

静止した手元

枯れかけた葉と転がった鉢。整えられたはずの空間に、わずかな「止まった時間」が残っている。楽屋裏のリアルな風景。

陽を浴びる待機列

鉢植えの群れが一列に並ぶ。その向こうにはネットの天井。温室の規律と光の加減を、すべて受け止める準備ができている。

おわりに

 舞台袖で光を待つ植物たち。その姿は、ふだん目にする「花の写真」とは少し違うかもしれない。けれど、こうした裏側の風景にも、たしかな美しさと命の気配が息づいている。

 このシリーズの一部は、写真素材としても公開しています。あなたの表現活動や仕事の中に、この静けさを添えられる場面があればぜひご覧ください。

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平成弐年式、やぎ座のO型。 ふだんは行政書士事務所の代表、根暗をやっています。

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