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問題34
損益相殺ないし損益相殺的調整に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 幼児が死亡した場合には、親は将来の養育費の支出を免れるので、幼児の逸失利益の算定に際して親の養育費は親に対する損害賠償額から控除される。
2 被害者が死亡した場合に支払われる生命保険金は、同一の損害についての重複填補に当たるので、被害者の逸失利益の算定に当たって支払われる生命保険金は損害賠償額から控除される。
3 退職年金の受給者が死亡し遺族が遺族年金の受給権を得た場合には、遺族年金は遺族の生活水準の維持のために支給されるものなので、退職年金受給者の逸失利益の算定に際して、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についても損害賠償額から控除されることはない。
4 著しく高利の貸付けという形をとっていわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で借主から高額の金員を違法に取得し多大な利益を得る、という反倫理的行為に該当する不法行為の手段として金員を交付した場合、この貸付けによって損害を被った借主が得た貸付金に相当する利益は、借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されない。
5 新築の建物が安全性に関する重大な瑕疵があるために、社会通念上、社会経済的な価値を有しないと評価される場合であっても、建て替えまで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの建て替え費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除される。
正解:4
この問題は、損益相殺の原則および例外を理解しているかを問うもので、判例学習を行っていないと混乱を招く構成になっています。
1:妥当でない
損益相殺とは、収益と費用、又は損失と収益を相殺し、純損益を算出することを指します。
本肢の「幼児の逸失利益」とは、幼児の成長過程で得られるべきだった経済的利益や社会的利益を指します。
幼児が不法行為で亡くなった場合、その逸失利益について損害賠償を求めることができます。
不法行為により死亡した幼児の損害賠償債権を相続する者において、幼児の養育費等の支出を要しなくなった場合、養育費分の支出がなくなることから利益部分だと考えられます。
この点、判例では養育費は損益通算の対象とならないとされ、幼児の逸失利益を算定する際、親が支払うべきだった養育費が損害賠償額から控除されることはありません(最判昭53.10.20)。
本肢は、「養育費は親に対する損害賠償額から控除される」と判例の趣旨に反し、誤りです。
したがって、本肢は妥当ではありません。
2:妥当でない
不法行為により被保険者が死亡し、相続人に保険給付が合った場合、損益通算の対象には含まれません(最判昭39.9.25)
生命保険金は、契約に基づき保険会社から給付されるものであり、加害者の賠償義務とは無関係です。
したがって、「生命保険金は損害賠償額から控除される」とする本肢は誤りであり、妥当とはいえません。
3:妥当でない
退職年金の受給者が不法行為により死亡した場合、相続人は、加害者に対し、退職年金の受給者が平均余命期間生存していれば受給するはずだった退職年金に対応する額を損害とし、請求することができます。
この場合、相続人に退職年金の受給者の死亡を原因として、遺族年金の受給権を取得した者がいるときは、遺族年金の支給を受けるべき者について、支給が確定した遺族年金の額を限度に損害賠償額から控除すべきであるが、いまだ支給が確定しない遺族年金の額についてまで、損害額から控除されることはありません(最大判平5.3.24)。
遺族年金は、受給者の死亡に伴い新たに発生する遺族固有の権利であり、死亡した受給者の逸失利益とは性質を異にするものであることが理由です。
本肢では、「いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についても」となっており、確定の有無にかかわらず損害賠償額から控除されない意味になっている点が誤りです。
したがって、本肢は妥当ではありません。
4:妥当
本肢におけるいわゆるヤミ金融業者の行為は、反倫理的行為に該当し、損害賠償の場面において貸付金を損益相殺の対象に含むことは不法原因給付の趣旨に反します(最判平20.6.10/民法第708条)。
したがって、「借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されない」とする本肢は妥当です。
5:妥当でない
売買の目的である新築の建物について、重大な瑕疵があることを理由に立て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであり、建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を持たないと評価すべき場合には、買主がこれに居住していたという利益について、損害賠償における損害額から控除することはできません(最判平22.6.17)
一般的に、建物に居住していたことによる居住利益は存在しますが、瑕疵が重大であり、建物が経済価値を欠くような場合にまで居住利益を損害賠償額から控除するのは不適切です。
したがって、「立替まで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの立替費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除される」とする本肢は妥当ではありません。